持続可能な養殖を通じて「ACE」が取り組む、シンガポールの食糧安全保障目標

国内で消費する食品の90%を他国からの輸入に依存しているシンガポール。国有面積が非常に狭い同国発のスタートアップは、食料自給率の向上に向けて、テクノロジーの力で解決策を導き始めている。
食品

シンガポールのリー・シェンロン首相は6月7日、新型コロナウイルス感染症の大流行後の世界で起こりえる課題に取り組むための対策として、食料源を多様化する計画を演説中に言及した。

Channel News Asiaの報道によると、世界的な健康危機が発生する以前から、国有面積が非常に狭いシンガポールは国内で消費される食品の90%を輸入しており、外国産の食品への依存度が非常に高いという。この課題への取り組みの一環として、シンガポール食品庁は2030年までに食品の30%を地元で生産する計画を打ち出している。

これは私たちが現地のスタートアップに取り組んでもらうことを期待しているような種類の課題であり、「ACE-Fish Market」はそのうちのスタートアップのひとつである。

CEOのLeow Ban Tat氏が設立した「The Aquaculture Centre of Excellence(ACE)」は、2種類のサービスを運営している。「Eco-Ark」と呼ばれる浮体式の閉じ込め型養殖場と、養殖場の魚を流通するBtoCのEコマースサイトである。シンガポール国内での食料の自給自足をサポートするだけでなく、これらのサービスを通じてより環境に優しい方法を実現することを目指している。同社はシンガポール食品庁が運営する農業生産性基金(APF)の助成金を受けている。

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生産者から食卓に直接届く、安全な食料

「Eco-Ark」は多方面で環境に配慮した方法を導入している。魚など水産資源の処理には化学薬品を使用せず、排水する水質にも気を配り、シンガポールのウビン島の沖合にある施設の電力供給には太陽エネルギーを使用している。同社のプレスリリースはオゾン水で魚を養殖すると、致死率が大幅に低下すると詳細に述べている。

「私たちは魚が干渉されずに健康に成長できるように、確実に水をきれいにする手法を採用した。シンガポールやその他の国の多くの養殖業者が慣れ親しんでいるものとは異なる」と、Leow氏はe27に電話インタビューで説明している。

「フードセキュリティー(食料安全保障)ついて語る時に、人々はより多くのものをより速く成長させるという方法を使いがちである。だがそれを達成する技術がなければ意味はない」と彼は続けた。

「ACE」は2020年の養殖業の総収穫量を166トンと予測していて、これは沿岸部の養殖場の平均最低生産量の20倍になるという。収穫した魚は同社が運営するECサイト「ACE Fishmarket」を通じて流通している。

このサイトは生産から加工、そして配送までのすべての過程をカバーする同社が安心安全への取り組みとして掲げている「farm to fork」(生産者から直接食卓へ)において、重要な役割を果たす。新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行がシンガポールを襲う前からサービスの立ち上げは計画されていたが、より多くの顧客がオンラインで食料品を購入するようになり、サーキットブレーカー(シンガポールで発令された外出禁止令)がプラットフォームに勢いを与えている。

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「明らかに新型コロナウイルス感染症のおかげで、私たちはサブスクライバーを獲得し、市場からの注目を得られている。サーキットブレーカーは、私たちにとって確かにありがたいものである」とLeow氏は述べた。

今後の展望

Leow氏は感染症の世界的大流行の後、シンガポールの食糧安全保障はどのように論じられるかと問われると、新型コロナウイルス感染症は食糧安全保障を確保するためのイノベーションの重要性について、国に「大きな教訓」を与えてくれたという。

「私たちは今からたった10年後の2030年までに、国内の食料生産率を30%まで上げることを目指している」と彼は話す。国内で食料生産量を増やすことは当初からLeow氏の野心であり、それが「Eco-Ark」の技術開発につながった。近い将来、彼は養殖場のために新しい孵化場の建設を目指している。

石油・ガス業界で得た経験から培った技術を活かし、彼は海底の安定した水面上に建設する波止場に孵化場を設計することを計画している。

「孵化場や倉庫、そして加工場を一箇所で集中管理できるとしたら、シンガポール食品長が掲げる2030年までに食品の30%を地元で生産する目標の実現に貢献できると考えている」と彼は締めくくった。

翻訳元:https://e27.co/how-ace-aims-to-support-singapores-food-security-goal-through-sustainable-fish-farming-20200618/

記事パートナー
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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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