3Dバイオプリンティングは、過去10年間で大幅に進歩した。
3Dプリント業界の中でも特に成長著しいセグメントの1つとなっており、世界のバイオプリンティング市場は、2027年までに40億ドル以上に達すると予想されている。
3Dバイオプリンティングとは、タンパク質、生細胞、生体材料を利用して生体材料を生産する技術を指す。異なる材料を左右、上下、前後に分散させて、アイテムを層ごとに印刷することで、血管や皮膚組織などの複雑な構造物を構築することができる。
以前は、医療業界でのみ使用されていたが、近年では幅広い産業が革新性を求め3Dバイオプリンティングに注目している。理由は、3Dバイオプリンタが洗練された技術になってきているからである。
同技術は、高い生存率と高精度で細胞を提供できるようになっている。世界中の多くのバイオテック企業、研究所、病院、大学が同分野に注目しているのも頷ける。
本記事では、3Dバイオプリンティングが5つの産業にもたらすイノベーションについて解説するる。
3Dバイオプリンティングでは、天然の組織と同じ性質を持つバイオメディカルパーツをプリントすることができる。
医療の領域における最終目標は人間の臓器を完全に模倣することである。臓器移植の需要は年々増加し続けており、3Dバイオプリントがもたらすソリューションは重要になってきている。3Dバイオプリンティング業界の多くの研究者は、20年以内に、移植待ちのリストはもはや存在しなくなるだろうと感じている。患者は、自分の体の細胞から作られた臓器を手に入れることができるようになるからだ。そのため、臓器が体に拒絶されるリスクはなくなるだろう。
韓国のバイオテクノロジースタートアップ企業であるROKITヘルスケアは、慢性疾患の解決策を提供するために、3Dバイオプリンティングによって臓器を再生する方法を研究してきた。皮膚、軟骨、腎臓に関連する疾患はまだ治療法がないため、ROKITはこれらの分野に特化した研究を行っている。同社は、マサチューセッツ総合病院での動物実験を終え、現在エジプトで軟骨再生の臨床試験を行っている。
さらに、同社は革新的な3Dバイオプリンター「DR.INVIVO」で業界をリードしてきた。INVIVOは、バイオポリマーやハイドロゲルのような様々な生体材料の精密な印刷を可能にする革新的な3Dバイオプリンターである。また、ROKITは、インドのハイケア・スーパー・スペシャリティ病院と共同で、カスタマイズされた組織再生プラットフォームを用いて、糖尿病性足潰瘍の治療を管理している。
すでに患者を対象とした試験で成功が確認されており、今年中に世界的な商業化が予定されている。ROKITは「患者の自己脂肪組織を用いたROKITの4Dバイオプリンティングシステムを用いて、臨床試験中に1回の治療で糖尿病性足潰瘍を治癒させることに成功した」としている。これは、創傷治癒や瘢痕治療のような他の皮膚再生治療にも役立つ可能性がある。
3Dバイオプリンティングで最も成長著しいのが代替肉産業である。動物性の肉よりも持続可能なだけでなく味も本物に近づいてきている。
米食肉大手のタイソンフーズは、細胞ベースの食肉会社Memphis MeatsとイスラエルのラボFuture Meat Technologiesに出資している。
また、KFCがバイオプリンティング会社と提携し、KFCの特徴的な味と食感を持つチキンナゲットの開発を進めている。従来の農法と比較して、バイオプリントされたナゲットは本物の肉を一切使用しないため温室効果ガスの削減にも貢献する。また、KFCはBeyond Meatの植物ベースのチキン製品を使ってベジタリアンチキンナゲットの開発にも着手している。
3Dバイオプリンティングの研究は、皮膚組織再生を含む美容業界の革新的ソリューションの創出に繋がっている。
メイクアップや製品テストのための皮膚サンプルはより速く、より安価に提供され始めている。
この動向を象徴して3Dバイオプリンティング企業のOrganovoがL'Orealと提携した。両者はこの提携により年間10万個以上の皮膚サンプルを生産するとしている。
3Dバイオプリンティングの活用における美容業界の利点は、倫理感を阻害することなく、様々な肌タイプにまたがってエシカルなテスト製品を作成できることである。
この領域のスタートアップは、毛髪再生、食事管理、美容ケアにおけるアンチエイジングソリューションを集中的に研究し始めている。
Elon Musk氏は、自身が経営する「スペースX」において、宇宙産業を活性化させ、火星への有人探査ミッションを成功させることを目指している。しかしこのミッションには克服すべき課題も多い。
欧州宇宙機関(ESA)は、長期の宇宙探査や惑星定住の医療を支援するために、3Dバイオプリンティングに注目している。
3Dバイオプリンティング技術は、宇宙空間で発生する可能性のある偶発的な怪我の治療オプションを提供することができる。限られた空間で治療プロセスを施すには体の組織、皮膚、骨、軟骨を迅速に再生できる技術が求められる。
また、医療とは異なるが、3Dバイオプリンティングによって生産された細胞組織サンプルは、宇宙放射線の影響を研究するために使用することもできる。
バイオプリントレザーだ。3Dバイオプリンティングで革を生産することのメリットは計り知れない。
3Dバイオプリンティングによって、革生産における必要な水、エネルギー、土地の使用量が劇的に減少する。動物虐待をなくすという利点もある。
Modern Meadowというアメリカのスタートアップ企業は、天然の動物の皮に含まれる主な構造成分であるコラーゲンから作られた素材を開発した。
同社の目的は、その素材をより強く、より弾力性のあるものにすることで、本物の革よりも優れた素材にし、自由な加工を可能にすることである。