ポップコーン販売に学ぶ価格決定のポイント

価格戦略はビジネスを伸ばす上で最も重要な要素となる。行動心理学に基づく2大手法である「アンカリング効果」と「おとり効果」について、例を交えて解説する。
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一般的な経済学では、買い手と売り手が常に合理的(自分の利益のため)な行動を取ることを前提としている。しかし、実情はそうなっていないことの方が多い。

行動経済学では、人間の非合理性を加味することで「誰が、いつ、何を」買うかに影響を与える新しい価格戦略を生み出している。「アンカリング効果」と「おとり効果」を理解すれば、製品やサービスの価格設定は簡単になる。

いくつかの実生活の例を使って、これらを検証してみよう。

アンカリング効果

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2010年にSteve Jobs氏がステージでiPadの価格を発表した時の動画をご覧頂きたい。

プレゼンテーションの途中で、Jobs氏は観客に「価格はいくらにすべきか?」と尋ねる。

すると「専門家の意見によれば1,000ドル以下、つまり999ドルで販売するのが良いと言われる」と観客に伝え、このタイミングで大きなスクリーン上に「US$999」と表示される。

しかしその後すぐに、「我々はこのiPadを499ドルで提供できることにワクワクしている」と加えると、スクリーン上の999ドルの表示が消え、499ドルと表示される。

「499ドルで提供できることで多くの方々にiPadを使って頂くことが出来る」

このように伝えることで観客の心を揺さぶったのである。

Jobs氏は真のショーマンであり、常に観客の購買心理を自由自在に操っていた。この例でポイントとなるのは「価格のアンカリング効果」である。聴衆の頭の中に「999ドル」という数字を植え付けることで、「499ドル」がさもお買い得であるかのように見せかけているのだ。その証拠に、Appleは初日に30万台のiPadを販売している。

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アンカリングは、価格設定において最もシンプルかつ強力な戦術の一つである。

使い方は非常にシンプルで「販売したい製品が提供する真の価値について語ること」である。

例えば人事管理ソフトウェアが、顧客の採用コストを20万ドル削減できるのであれば、それを価格設定のアンカーとして使用するのが良い。

もし5万ドルで提供すれば、顧客は喜んで購入するだろう。一方、アンカリングがなければ、5万ドルは高いと思われるかもしれない。

おとり効果

「おとり効果」は、Dan Ariely 氏が著書「Predictably Irrational (2008年)の中で発表した行動経済学のテクニックである。一言で言えば、合理的で正しい意思決定をするために「比較をしたい」という人間の欲求を利用することである。

ちょっとした実験をしてみよう。あなたは好きな映画を見に映画館に行く。塩とバターを混ぜたポップコーンの誘惑に負けて、ポップコーンを買わずにはいられない。売店に到着すると,あなたは以下の商品を目の前にすることになる.

あなたなら「小・中・大」のどのサイズを選ぶだろう?

結局「大」を選んだだろう。0.5ドル追加するだけで「大」が得られるからだ。

しかし「小」と「大」しかなかったらどうだろうか?

このシナリオでは、おそらく「小」を選択したかもしれない。「中」サイズのおとりがないので、「大」サイズの購入メリットが感じられなくなるためである。

この実験は実際に実施されたもので、ポップコーン以外にも異なる商品やサービスで何度か行われている。「おとり効果」は他の製品やサービスにおいても、再現性高く、より大きな利益を生み出した。

通常、この効果は3つの要素をリンクさせることで生み出され、そのうちの1つがおとりの役割を果たし、購入者の意思決定に影響を与える。

別の例を見てみよう。あなたが旅行先を探していると仮定し、あなたの旅行代理店はローマとパリをお勧めする。どちらの旅行も航空運賃、ホテル、ツアー、朝食がパッケージに含まれている。あなたはどちらを選択するだろうか?

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選ぶのは困難だろう。この決断をするには、どちらの場所にもメリットとデメリットがあるので、検討が必要になる。しかし、「無料の朝食が含まれていないローマ旅行」という第三のオプションを追加する場合はどうだろう?

  • オプション1:ローマ - チケット、ホテル、ツアー、朝食付き

  • オプション2:パリ - チケット、ホテル、ツアー、朝食付き

  • オプション3:ローマ - チケット、ホテル、ツアー(朝食代は別途お支払い頂きます)

オプション3と比較すると、オプション1(無料朝食付きのローマ行き)のパッケージが当然よくうつるだろうし、更にオプション1は、比較対象がないオプション2(パリ)よりもよく感じるだろう。

デジタル環境ではどのようにしてこのようなことが起こるのだろうか?

Netflixを契約している方は、スタンダードかプレミアムのどちらかのプランになっている可能性が高い。この記事を読んだあなたならその理由は分かるだろう。ベーシックプランは上位プランを使ってもらうためのおとりにすぎないのである。

認知バイアスはどのように使えばよいのか?

「おとり価格」を利用して最も売りたい商品を購入するように誘導したい場合は、「アンカー効果」を加え、最も売りたいオプションの価値を強調するような異なるオプションやパッケージを提供することを検討してみよう。

顧客は、商品・サービスを比較をしたり、金額に見合った価値のあるオプションを選ぶことで正しい選択をしていると感じることができるので、結果として満足度向上に繋げることができるのである。

翻訳元:Here is what a bag of popcorn can teach us product pricing

表題画像:Photo by Meg Boulden on Unsplash (改変して使用)

記事パートナー
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執筆者
松尾知明 / Tomoaki Matsuo
中小企業診断士 / Web Writer
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