GREEN WORK HAKUBA 参加レポート1: キーノートステージ

2021年9月7日から10日にかけて開催された「GREEN WORK HAKUBA vol.3」の様子をお届けする。本記事は、Day1のコンテンツ紹介だ。
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2021年9月7日から10日にかけて、「GREEN WORK HAKUBA vol.3」が、長野県白馬村で全4日間に渡って開催された。SUNRYSEは同カンファレンスに参加し、2日目のセッションに登壇した。

本レポートでは、全3回の連載を通じて「GREEN WORK HAKUBA vol.3」の様子をお届けする。

本記事では、Day1におけるコンテンツについて紹介する。

GREEN WORK HAKUBAとは?

「GREEN WORK HAKUBA」は、長野県白馬村で行われているサーキュラーエコノミーカンファレンスだ。サーキュラーエコノミーを通じて地域のあるべき姿を提示し、実装につなげることを目的としている。

プログラムは、セッションやピッチを通じてサーキュラーエコノミーについて学んだ後、実際に白馬にサーキュラーエコノミーを実装するためのアクションを考案するという構成になっている。2021年2月に続き3回目の開催となる今回は、白馬村にサーキュラーエコノミーを実装することを念頭に置いたワークショップがプログラムの半分以上を占め、「実装」により重きを置いたプログラム構成となった。 また、実装のためのコミュニティづくりも重要視されている。サーキュラーエコノミーに関わる多様な企業と専門家が「GREEN WORK HAKUBA」を通じてつながることで、白馬村での実装を加速させる狙いだ。

また、その名に「GREEN WORK」とあるように、参加者が白馬の自然と非日常的なワークスタイルを体験しながらカンファレンスに臨むことも特徴の一つである。

ホテルシェラリゾート白馬の敷地内にて開幕したDay1では、知識のインプットを主な目的に据え、白馬村観光局 福島氏、CIRCULAR ECONOMY JAPAN 中石氏、メラティ・ワイゼン氏、大崎町 齊藤氏、面白法人カヤック 柳澤氏、ボーダレス・ジャパン 田口氏、BIOTOPE 佐宗氏、新東通信 榎本氏の総勢8者が登壇した。以下に主な講演内容を取り上げる。

白馬村観光局 福島氏の講演

年間200万人が訪れる白馬村は日本を代表するスキーリゾートだ。白馬村の誇るパウダースノーは、その地に暮らす人々にとって石油よりも大切な資産である。しかし現在、気候変動によりその環境が変わってきている。

最初に動いたのは地元の高校生だった。気候変動を目の当たりにした高校生が中心となり、「グローバル気候マーチin白馬」が開催されると、白馬村は白馬村気候非常事態宣言を発令した。

「持続可能なマウンテンリゾート白馬」を目指し、具体的なアクションにつなげていくために、2020年からGREEN WORK HAKUBAを実施している。白馬村の人々や行政、スタートアップ企業、大企業、大学など、様々な関係者・有識者を誘致し、サーキュラーエコノミーについて学ぶワークショップなどを開催している。

サーキュラーエコノミーの必要性

CIRCULAR ECONOMY JAPANの中石氏と白馬村観光局の福島氏によるサーキュラーエコノミーに関する共有がなされた。ここでは、中石氏の講演に基づいてサーキュラーエコノミーについて簡単に紹介したい。

サーキュラーエコノミー(CIRCULAR ECONOMY)とは?

サーキュラーエコノミーは、資源を循環させることによって持続可能な経済成長を可能にする経済の仕組みである。

サーキュラーエコノミーの考え方の基礎となるのが、以下のサーキュラーエコノミーの三原則だ。

  1. 廃棄物を生み出さない設計

  2. 製品を使い続ける

  3. 自然システムを再生する

原則の一つ目にあるように、廃棄物を生み出さないように設計段階から取り組むという点で、リサイクルを中心としたリサイクリングエコノミーとは明確に区別される。また、三つ目の自然システムを再生するという点も重要なポイントであり、後述するDecouplingの考え方にもつながっている。

サーキュラーエコノミーは手段である

気候変動の影響で、2050年までに地球規模でさまざまな問題が噴出することが予測されている。持続可能な世界に向かう大きなトレンドと具体的な動きとして、①Planetary Boundaries、②Decoupling、③SDGs、④パリ協定 がある。

Planetary Boundariesは、地球の回復力と人類の活動から算出される、持続可能な活動の範囲を示している。境界を超えた赤い部分は、人間の活動によって地球に破壊的な変化を生じることを示す。

J. Lokrantz/Azote based on Steffen et al. 2015.

Decouplingは、経済成長やウェルビーイングと資源の使用、環境負荷を切り離すという概念である。以下の図でそのアイデアが説明されている。

Hilty, Lorenz & Lohmann, Wolfgang & Huang, Elaine. (2011). Sustainability and ICT – An overview of the field. Politeia. XXXVII. 3-12. 10.5167/uzh-55640.

ここでのポイントは、サーキュラーエコノミーは、Planetary BoundariesやDecoupling、SDGs、パリ協定といったより上位の目的を達成するための手段に過ぎないことだ。さらに、これらの目標は、ウェルビーイングというさらに上位の目的のための手段である。つまり、ウェルビーイングの視点抜きにサーキュラーエコノミーを語ることはできない。

本カンファレンスでも、白馬村のウェルビーイングが最終的な目標として設定されていて、サーキュラーエコノミーの実装はその手段として位置付けれらている。

サーキュラーエコノミーは経済システムの破壊的変化だ

中石氏は、これまでのリサイクリングエコノミーの延長ではなく、大きな転換を伴ったサーキュラーエコノミーへの変革が必要だと言う。しばらくはリサイクリングエコノミーとサーキュラーエコノミーとが併存していくが、将来的にはサーキュラーエコノミーが占める割合が増えるはずだと中石氏は述べた。リサイクリングエコノミーを前提とした政策決定や事業設計は、将来的なリスクとなり得るということだ。

また、エネルギー部門における55%の再生可能エネルギー化は前提として、残りの45%はサーキュラーエコノミーの原則に従ったイノベーションで解決しなければならないと語った。

Bye Bye Plastic Bags - メラティ・ワイゼンさん

メラティ・ワイゼンさんがバリ島からオンラインで登壇し、白馬村に向けたメッセージを発信した。彼女は、当時12歳の若さでプラスチックごみをなくす活動「Bye Bye Plastic Bags」を姉妹で開始し、その後、同名の環境NGOの共同設立者となった。彼女らの活動により、2018年、バリ州デンパサール市長規則第36号が制定され、2019年1月1日に発効。バリ島において使い捨てプラスチック袋やストロー、発砲スチロール製品が禁止された。 この功績から、彼女は2018年TIMEのTIME’s 25 Most Influential Teens of 2018に選出され、2019年にはニューヨークで開催された世界経済フォーラムの持続可能な開発影響サミットの最終セッションの共同議長を務め、2020年にはForbesの30 Under 30に選出された。国連やTEDでの講演も実施している。彼女らが実際の活動で使用しているパンフレットや、古い雑誌を活用したプラスチックに代わるバッグを見せながら、活動の軌跡を振り返るとともに、白馬村の取り組みに対して共感し、激励のメッセージを届けた。

鹿児島県大崎町の事例

リサイクルの街から世界の未来を作る街へ

鹿児島県大崎町でサーキュラーエコノミーの実装に取り組む齊藤氏による、大崎町における事例紹介が行われた。大崎町では、「リサイクルの街から世界の未来を作る街へ」を掲げ、サーキュラーヴィレッジの実現を目指している。

大崎町がリサイクルに取り組み始めたきっかけは、当時ごみ処理施設として利用していた埋め立て場が埋まってしまうという問題であった。代替的な手段として提案された焼却炉の建設はランニングコストが高く、埋め立て場を新設するという案は、埋め立て場が周囲に悪臭などをもたらす迷惑施設であり、どちらも住民の理解が得られないことから棄却された。そこで、既存の施設を長く使うために、ごみを減らすように努力する方向性に向かったという。実際に、平成16年に埋まると予測されていた埋め立て場は、現在も利用されている。

大崎町が実践しているごみ削減のための取り組みとして、①資源を循環させること、②生ごみと草木のリサイクルが紹介された。

大崎町がごみの削減に取り組む中で見えてきた課題もある。大崎町単独でどれだけリサイクルに取り組んでも、ごみを出すようなプロダクトを製造する企業とともに取り組まなければ限界があるのだ。現在は、製造プロセスのより上流のステークホルダーを巻き込むことで、サーキュラーヴィレッジの実現を目指している。

サプライチェーンまで踏み込む、民間との連携

高いリサイクル率を実現した大崎町が現在取り組んでいることとして、上述した現在使われている大崎町のリサイクルシステムの評価、企業と連携したリユース・リデュース促進などが挙げられる。企業との連携の例として、ユニチャームとの取り組みを紹介する。大崎町とユニチャームは、埋め立てごみの1/3が紙おむつであることに着目し、再利用可能な紙おむつの開発を試みている。日本は紙おむつの輸出国であり、焼却炉が一般的でない海外諸国に紙おむつを輸出した場合、現地で埋め立ての問題が生じてしまう。紙おむつのごみの削減に取り組むことは、大崎町だけでなく世界の課題を解決する点で大きな意義を持つ。また、凸版印刷と協働して、焼酎のパックの内側のアルミ箔を不要にすることで、現状サーマルリサイクルしかできない焼酎のパックを、リサイクル可能な紙パックにすること取り組んでいる。また、一定の成果を収めている大崎町のリサイクルシステムを外部展開することにも取り組んでいる。これらの一環として、「OSAKINI プロジェクト」という、大崎町と協働する連携企業や団体、自治体を募集するプロジェクトも行っている。

白馬村サーキュラービジョン発表

福島氏(白馬村観光局)、佐宗氏(BIOTOPE)、榎本氏(新東通信)により、過去2回のGREEN WORK HAKUBAを土台として、今年の6月末に開催されたVISION DESIGN BOOTCAMPにて策定された「HAKUBA CIRCULAR VISION」の発表が行われた。

発表された「サステナブルを遊ぶ、企む、つくる。」というビジョンには、「自然を守りながら、自分たちの暮らしも豊かにする。楽しみながら挑戦し、自然と遊びながら暮らす。」という想いが込められている。

また、VISION DESIGN BOOTCAMPにて、ビジョンと合わせて7つのプロジェクトが策定された。これらのプロジェクトには、テック系スタートアップも参画し、具体的な着手、検討の段階に入っている。

佐宗氏(BIOTOPE)は、白馬村のユニークな点として、新しいライフスタイルを送りたい人や面白いことを考えている人が狭い範囲に密集している環境であることや、海外という概念が浸透している環境であることを挙げた。グローバルなスキーリゾートでも白馬には世界中からスキーヤーやスノーボーダーが集まるため、このような風土が形成されたのだ。また、白馬は自然との距離が近く、雪不足などの気候変動を肌で感じられる場所でもある。問題解決の結果が見えやすく、サーキュラーエコノミーの実装に適した場所なのではないかと語った。

3名は、今後も「サステナブルを遊ぶ、企む、つくる。」ための活動を、GREEN WORK HAKUBAを通じて推進していくとし、Day1を締めくくった。


表題画像:Photo by Goutham Krishna on Unsplash (改変して使用)

執筆者
井田 新 / Arata Ida
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