商業的な農業の形が私たちの健康やライフスタイル、環境へ与える影響についての意識が高まる中、過去数十年の間に人々の食生活は大きく変化してきた。近年、特に欧米では動物性食品や植物性食品を中心とした食生活へのシフトや、食材の透明性に対する関心も高まっている。
Impossible FoodsやBeyond Meat、イスラエルのスタートアップ企業であるRedefine Meat、Future Meat、Aleph Farmsなどの企業が、植物由来の肉や培養肉の未来に関心を寄せており、「クリーン」な食肉業界は盛り上がりを見せている。
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乳製品産業は次のフロンティアになり得るのか?微生物による発酵で、動物性食品を含まない乳製品を開発しているイスラエルのフードテック企業Remilkは、確かにそう考えている。
有名な"Got Milk?"キャンペーンから約30年、2021年現在では乳製品を使わない牛乳が人気を博しており、Markets and Marketsのグローバル予想レポートによると、乳製品代替市場は2020年の214億ドルから2025年には367億ドルに成長すると予測されている。市場は、大豆、米、ココナッツ、アーモンド、オーツ麦、その他などの代替素材別に分類され、特に牛乳の代替素材では大豆が最も人気だという。
しかし、「Remilk」は、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの"本物"の乳製品を、一頭の牛も必要とせずに展開する最初の企業になることを目指している。
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2019年に設立されたこのスタートアップは、特許取得済みの独自プロセスを用いて乳製品のタンパク質の特性を再現し、動物を使用せずに乳製品に似た食品の開発を行っている。
「Remilk」のCEOであるAviv Wolff氏は、次のように語っている。「Remilkは、乳製品を愛するものとして、牛乳をあきらめる選択肢はありません。そのため、動物を必要とせずに乳製品を生産するという使命を持って設立されました。しかし、今日の牛乳には不当な価格がついています。酪農農家は地球や健康、そして動物を傷つけており、もはや持続可能であるとは言えません」
実際、乳業は温室効果ガスを多量に排出するため、気候変動の要因となっており、環境への影響は否定できない。
ハーバード大学の食料・気候政策の研究員であるHelen Harwatt氏によると、乳製品は温室効果ガスの排出量が2番目に多い畜産物であり、全世界の排出量のうち4%を占めているという(1番目は牛肉)。さらに、酪農は膨大な量の水と放牧地を必要とし、大量の廃棄物も排出されている。
「Remilk」によると同社の製品は従来の乳製品生産システムと比較し、土地は1%、原料は4%、水は10%程度しか必要としないため持続可能で環境に優しい製品であるという。
またこのスタートアップは食品業界の大手企業から注目を集め、資金援助を受けている。2020年12月にはアーリーステージのスタートアップ企業に特化した、イスラエルのVCであるfresh.fundが主導する資金調達ラウンドで1,130万ドルを調達した。支援者としては、イスラエルのベンチャー企業であるOurCrowdや、食品意識向上のためのNGOであるProVeg International、さらに食品メーカーであるドイツの乳製品会社Hochland、イスラエル最大級のミルク・フェアリー会社であるTnuva(中国のコングロマリットであるBright Foodsを買収)、イスラエルの大手飲料会社Tempoなどが名を連ねている。
Remilkは、微生物による発酵で乳製品と同じタンパク質を作り、味や機能性、栄養価に妥協しないラボベースの乳製品製造を独自のアプローチで開発しているという。
Wolff氏は次のように説明している。「非常に簡単な方法で、乳タンパク質のコードを記す遺伝子を取り出します。この遺伝子は、タンパク質を製造するための手順書のようなものです。この遺伝子を私たちが開発した微生物に挿入することで、効率的且つスケーラブルな方法で特定のタンパク質を生産するよう微生物に指示を出すのです」
微生物による発酵自体は新しい概念ではないが、乳製品の生産への応用は革命的なものである。Wolff氏によると、微生物発酵は1980年代から人間のインスリンや成長ホルモン、酵素、その他様々なタンパク質の製造のために商業的に使用されてきたという。
「Remilk」は、この科学的なプロセスを利用し「発酵タンパク質を、通常の乳製品と同じ味、触感、伸び、溶けを持つ、あらゆる種類の乳製品に配合する」という。
この手法により、コレステロールや乳糖、抗生物質、成長ホルモンが含まれない乳製品の製造が可能となる。
また「Remilk」は、本物の乳製品と同じ味だと言っている。同社の乳製品はまだ市販されていないが、最終的には「世の中にあるすべての乳製品を作ることで、牛にとって代わる存在となることを目指している」とWolff氏は語っている。
「Remilk」は、近年(2021年現在)話題となった企業だが、家畜に依存しない乳製品のベンチャー企業は未だ数が少ない。
ラマトガンに拠点を置くイスラエルのスタートアップ、「BioMilkもその一つである。2018年に設立されたBioMilkは、動物の培養乳や人間の培養乳、そしてミルクオリゴ糖(HMO)の3つの開発トラックに注力している。
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関連記事:Lab-Cultured Breast Milk: Israeli Startup Races To Do It First
BioMilkは2021年現在、実験室内での動物性培養乳の製造に関する特許を保有している。その動物性培養乳の製造プロセスは3段階に分かれており、第1段階では乳房内で乳を製造するための乳腺細胞を分離する。第2段階では、その細胞をバイオリアクターで成長させ、第3段階で成長した乳腺細胞から乳が分泌し、乳製品の原料とするのだ。
一方で、テルアビブ大学のイスラエル人研究者たちは、酵母を活用し、見た目も味も牛乳のような製品の製造に取り組んでいる。
テルアビブ大学、The Iby and Aladar Fleischman工学部生物医科学工学科のTamir Tuller教授は、フードテック企業のEyal Iffergan博士と共同で、「Imagindairy」というスタートアップを設立した。
Imagindairyの計画はアーモンドミルクや豆乳のような代用乳ではなく、牛の乳を製造するコードを持つ遺伝子と酵母のゲノムを組み合わせることで、動物から得られる製品と同一のものを製造するというものだ。
「遺伝子発現とは、"無生物"であるDNA内に収納されている情報を"生命の本質"であるタンパク質に変えるプロセスであり、タンパク質は人間からコロナウイルス、牛のミルクに至るまで、あらゆる生物の主要な成分です」とTuller氏は説明した。
バイオテック企業は望ましいタンパク質を手頃な価格で生産するために、遺伝子発現プロセスを利用してきた。また同氏は「この技術は長年にわたり、医薬品やワクチン、エネルギーの生産に利用されており、食品業界においても利用されています」と続けた。
Imaginedairyはテルアビブ大学の技術移転企業であるRamotを通じてテルアビブ大学と協力している。
翻訳元:https://nocamels.com/2021/02/milk-israeli-food-tech-remilk-cow-free-lab-dairy/
表題画像:Photo by gang coo on Unsplash (改変して使用)