フィンテック産業は、ロンドンのような主要プレイヤーに比べると未だ発展途上であるものの、首都クアラルンプールは今年のグローバルフィンテックランキングにて11位に上昇した。
クアラルンプールにおける成功事例は枚挙に遑がない。その中の1つに挙げられるのが、金融サービスプロバイダー向けにデジタルアクイジションソリューションを提供し、これまでに3,700万米ドルを調達している「Jirnexu」だ。また、1月には、サプライチェーンファイナンスのスタートアップでありP2Pファイナンスプラットフォームの「CapBay」がシリーズAにて、2,000万米ドルを獲得した。
デジタルウォレットプロバイダーに関してマレーシアの消費者には多数の選択肢が用意されており、「Jobstreet」に掲載されているように主要プレーヤーとして「GrabPay」、「CIMB Pay」、「AEON Wallet」、「Boost」、「Touch 'n Go」などが存在する。
キャッシュレス決済は人々の生活においてますます重要な役割を担うようになり、高速道路料金の電子決済システムにおけるアクティブユーザー数は2,100万人にまで膨れ上がるほどだ。
実のところマレーシアにおけるデジタルウォレット利用率は40%であり、フィリピン(36%)やタイ(27%)、シンガポール(26%)などの近隣諸国を上回り、ASEANの中でトップを誇る。また、関連して、現金の使用率についてはパンデミックが始まってから64%減少している。
これらの統計はマレーシアの活発なデジタル市場を反映する。利便性や衛生面を重視する消費者が増えたことにより、デジタルウォレットやデジタルバンキングなどの非接触型の方法に自然と目が向くようになったのだ。こうした動きはフィンテック企業における全体的な成長と拡大にも現れている。例えば「AIA Malaysia」は最近「Touch 'n Go」の少数株式を購入し、その価値は30億リンギットに達した。その他にも「Boost」は最近、「RHB Banking Group」と提携しており、金融サービスの中でも利益率の高い分野への進出が読み取れる。
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近年のパンデミックはこの成長を加速させており、マーケットにおけるフィンテックソリューションへの、より迅速で大規模な適応を可能にした。
Fintech Malaysia 2021のレポートによると2020年のモバイルバンキング取引額は1億970万米ドルと過去最高を記録し、前年比で125%増加した。前例のない全国的なロックダウンにより人々は自宅での仕事を余儀なくされ、ビジネスのオンライン化が進み、デジタル決済の利用も促進されたという。これらのことが、数々のチャレンジの裏でマレーシアのフィンテックを勢いづけたのだ。
マレーシアのフィンテック・エコシステムの成長は、マレーシア中央銀行「Bank Negara Malaysia」と証券取引委員会の両者による規制面でのサポートにも支えられている。規制当局の取り組みをサポートすることを目的に、「Malaysia Digital Economy Corporation (MDEC)」は「Bank Negara Malaysia」と共同でキャパシティビルディングプログラムとなる「Fintech Booster」を立ち上げた。これは国内外のフィンテック企業が製品やサービスを開発する際に、法律・コンプライアンス、ビジネスモデル、テクノロジーの3つの戦略的なモジュールを通じて支援するものだ。
「MDEC」のプログラムによる恩恵を受けている企業の中には金融サービス産業(FSI)向けにフィンテックのインフラサービスを提供している「Soft Space」が存在する。同社はこれらのソリューションを「フィンテック・アズ・ア・サービス・モデル(fintech-as-a-service model)」により提供しており、FSIが利用需要に応じて料金を支払うことを可能にした。より具体的にはFSIにおいて、デジタルウォレットを介し、支払いを受け付けたり物理的なホワイトラベルのプリペイドカードを発行したりすることをサポートしている。
「Soft Space」の画期的なポイントの一つは、2018年に「PayNet」と共同で導入した「Tap to Phone」だ。世界初のこのソリューションは決済におけるゲームチェンジャーであり、近距離無線通信(NFC)を搭載したあらゆるAndroidデバイスにおける非接触型カードの認識を可能にしたのである。
「Tap to Phone」は主要なカードスキームに承認されており、「Visa」や「Mastercard」、「JCB」、そして最近では「UnionPay International」に承認された。また同技術はオーストラリアやヨーロッパ、日本でも利用されており、1億4,000万枚以上のカードを流通させている最大級のカードブランドの一つ「JCB」は、24カ国の加盟銀行にこの決済技術を導入している。
「Soft Space」は既に世界中の13のFSIと8つのパートナーにこの技術を導入していますが、その中には、ビジネスとセキュリティの要件が最も厳しいユニコーンのペイメント・ジャイアントも含まれています。」と、同社CEOのChris Leon氏は述べた。
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「Soft Space」は2箇所の先進国市場において、交通・物流分野にも進出している。日本においては、高速バスにおける非接触型クレジットカードへの対応を可能にするために「Tap to Phone」が業界で一番に採用された。一方オーストラリアでは「Transport for New South Wales」における支払いの認証に使用されている。これらは、「Soft Space」の能力を証明するものだ。
同社は台湾やオーストラリア、日本、タイ、シンガポール、インドネシアなどの他の海外市場への進出にも成功している。
「Soft Space」がこれらの重要なマイルストーンを達成することができたのは、マレーシア国内の豊かなフィンテック・エコシステムと政府の支援があったためだ。例えばマレーシアの中央銀行は、マレーシアの規制をグローバルスタンダードに合わせることの必要性を積極的に強調し、地元のフィンテック企業が世界に進出するための態勢が常に整っていることを保証している。
このような偉業を成し遂げたのは「Soft Space」だけではない。マレーシアのフィンテック企業の中でグローバル化を果たしている企業には「Tranglo」や「JurisTech」、「Merchantrade」などが挙げられる。
「Tranglo」は国境を越えた決済を専門とするフィンテック企業だ。Tranglo Connect」、「Tranglo Business」、「Tranglo Recharge」の3つのソリューションを提供している。それぞれ、海外への送金支払い、マネーサービス事業免許のない事業者における支払い、エアタイムクレジットの国際送金を行っている。
先日、米国のフィンテック大手「Ripple」は「Tranglo」の株式を40%取得することを発表した。今回の提携により、「Tranglo」はさらなる成長に向けた準備が整ったのだ。
同社CEOのJacky Lee氏は「今回の買収により、決済のためのデジタル通貨やブロックチェーン技術を用いた、取引のさらなるスピード向上や安全性確保など「Tranglo」の能力は拡大します。」と述べた。
規制の違いや言葉の壁などの課題はあるものの、マレーシアの多言語かつ多文化な独自性は「Tranglo」の海外進出を可能にした。同社は現在、フィリピンや中国、インドネシア、ベトナム、イギリスなど22カ国以上に進出している。
さまざまな顧客層に向けて多様なフィンテック・ソリューションを開発している「JurisTech」もマレーシアの抱える成功例の1つだ。同社は銀行や金融機関向けに与信管理ソフトウェアソリューションを提供している。さらに、中小企業向けのSaaS(software-as-a-service)製品や、消費者向け部門である「iMoney」を通じたカスタマイズされたマーケティングソリューションの提供を行う。
同社はプリスクリプティブ分析をする機械学習ツール「Juris Mindcraft」を開発した。このツールは生のデータを分析し、ビジネス上のアドバイスを提供するだけでなく、企業がより良い意思決定ができるよう支援する。さらに、デジタル・オンボーディング・プラットフォームである「Juris Access」を組織向けに導入しており、フロントエンドからバックエンドまでのカスタマージャーニーを合理化する、案内しやすくインタラクティブなデジタル空間を提供しているのだ。
「JurisTech」はオーストラリアやウガンダ、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)などグローバルに展開している。金融業界がデジタルトランスフォーメーションに向けて成熟していく中「JurisTech」は既に、銀行や金融機関、フィンテック、そして中小企業向けに未来をデジタルで構築するためのコンポーネントやソリューションを準備しているのだ。
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フィンテックのエコシステムにおけるもう一つの有望なプレイヤーとして「Merchantrade」が挙げられる。同社は「Visa」のプリペイドカードを含めデジタルウォレットの「Mercantrade Money eWallet」や送金アプリ「eRemit」、決済ゲートウェイサービス「Ozopay」など、複数のフィンテックソリューションを提供する。
現在「Merchantrade」は東南アジア最大級の送金業者であり、世界中の40以上の銀行を含む100以上の支払パートナーを有する。また、ヨーロッパやカナダ、オマーン、バングラディシュなど世界各地のパートナーが、同社の国際送金オペレータープラットフォームを利用している。
「Soft Space」、「Tranglo」、「JurisTech」、「Mercantrade」の4社は、近日中に開催されるマレーシアトップのフィンテック企業のキュレーション「Malaysia Tech Month Fintech Showcase」で全て紹介される予定だ。
このプログラムとフィンテックショーケースの詳細についてはMalaysia Tech Monthの公式ページに掲載されている。
翻訳元:https://e27.co/going-global-malaysias-homegrown-fintechs-take-on-the-world-20210805/
表題画像:Photo by on Unsplash (改変して使用)