世界のインシュアテック市場は、機械学習、モノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティングなど急速なデジタル化と先進技術の採用拡大が原動力となっている。これらの技術は大量のデータを生成し、保険会社が消費者行動を追跡・分析し、市場の乏しさを埋めるために保険業界のモデルを作り直すのに役立っている。
戦略コンサルティング・市場調査会社であるBlueWeave Consultingが行った2022年1月現在における最新の調査によると、2020年の世界のインシュアテック市場の規模は53億米ドルであることが明らかになった。同調査によると、同市場は年平均成長率10.6%(2021~2027年)で成長し、2027年末には約107億米ドルの収益を獲得すると推定される。世界のインシュアテック市場は、機械学習、モノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティングなど、急速なデジタル化と先進技術の採用拡大が原動力となっている。これらの技術は大量のデータを生成し、保険会社が消費者行動を追跡・分析し、保険業界のモデルを改造して市場の乏しさを補うのに役立っている。さらにインド、中国、シンガポール、中国などの発展途上国は、インシュアテック・スタートアップ企業の増加により、成長の可能性を秘めた国として台頭してきている。ただしデータプライバシーやサイバー攻撃は世界のインシュアテック市場の大きな制約となる可能性がある。
世界の保険業界をはじめ、あらゆる業種や政府機関がデジタル環境の優位性を激しく求めている。コンサルティング・プロフェッショナルサービス企業のアクセンチュアによると、保険会社の約86%が2022年までに、保険需要の増加に対応し競争力を維持するために、既存のビジネスモデルを革新・強化することを計画しているとのことだ。さらにビジネスモデルの変化に伴い、世界中の保険会社は事業を拡大し、よりカスタマイズされた消費者体験を提供するために革新的なデジタルソリューションに目を向けている。その結果、既存の保険ビジネスモデルの急速なデジタル化が世界のインシュアテック業界を前進させ、市場成長に寄与している。
クラウドコンピューティングは、その導入の容易さ、回復力、多用途性により多くの産業に革命をもたらしたが、保険業界も例外ではない。特にCOVID-19の発生後、様々な産業分野でクラウドコンピューティングの採用が進んでいることが、インシュアテック市場の成長を大きく後押ししている。世界中の保険会社はビジネスモデルを改善するためにクラウドコンピューティングを導入している。クラウドコンピューティングは、より高いレベルのセキュリティで、より優れた内部および外部データ管理を提供する。またワークフローを妨げない迅速な展開と容易な統合を実現する。さらにクラウドコンピューティングの応用はリスクデータや指標、様々な評価レポートを統合することでリスク管理にも役立つ。このようなクラウドコンピューティングの利点が予測期間中の世界のインシュアテック市場全体の成長を促進している。
インシュアテック市場はサービス別に、コンサルティング、サポート&メンテナンス、マネージドサービスに分類される。マネージドサービスはインシュアテック市場で最大のシェアを占めている。マネージドサービスプロバイダーは保険会社にその専門知識と先端技術の知識を提供し、業務効率の向上とビジネスモデルの最適化を引き出す。一方、サポート&メンテナンスサービスも、保険会社がIoTやブロックチェーンなどの先進技術の導入を進めていることから、予測期間中に大きな成長を遂げると予測される。
インシュアテック市場はエンドユーザーに基づき、自動車、BFSI、政府、ヘルスケア、製造、小売、運輸、その他に区分される。BFSI分野は銀行部門の拡大と、インシュアテック企業がより良いサービスのために利用できるようになったデータ量の増加により、市場を支配しており、企業は効率性の向上と総コストの最適化を実現できる。健康分野はインシュアテックの導入が他の保険分野よりも大幅に進んでいるため、予測期間中に最も速い速度で成長すると予測される。また健康保険会社は保険金請求処理を迅速化するために保険ソリューションを利用している。また様々な技術開発や、バックオフィス業務の自動化のためのデジタルコアレガシーシステムの採用も、市場の成長に寄与している。その他プラットフォームやピアツーピアのビジネスモデルの普及、保険料率の低下による政策立案者の増加などが、業界をさらに活性化させると予想される。
エンドユーザーの中では急速なデジタル化とウェアラブルデバイスなどのデータ生成デバイスの利用拡大により、ヘルスケア産業が大きなシェアを占めている。データ生成の利用が増えることでヘルスケア分野におけるデータのより良い管理に対する需要がさらに高まり、インシュアテックの市場全体の成長が促進されている。
伸びきった国民健康保険制度の中で医師を探すのは大変なことだ。その結果、急速に拡大する遠隔医療市場においてインシュアテックが活用されるようになった。米国では多くの州で、遠隔医療の発展を可能にするための法改正が行われている。
ヨーロッパにおいては、フランスでは医師との遠隔診察が一般的であり、イギリスでも一般的になりつつある。ドイツでは2022年1月現在インシュアテックが禁止されており、同国でも採用されるのは時間の問題であるものの、医療におけるインシュアテックのメリットは明らかだ。収集された情報により、保険会社はリスクを最小化・減少させながら相互に有益な消費者行動を促進することができる。
地域的には、インシュアテック市場は北米、ヨーロッパ、アジア太平洋、ラテンアメリカ、中東・アフリカに区分される。2020年の世界のインシュアテック市場では、北米地域が大きな市場シェアを獲得している。保険料の高コスト支出やデジタル技術を利用した保険金請求の追跡・管理が、米国の投資家を惹きつけている。保険会社のオンラインプレゼンスと保険金請求の追跡のためのデジタル技術により、米国ではインシュアテックプロバイダーからかなりの投資が行われており、大きな潜在市場を示している。米国では、顧客志向の保険サービス向上の可能性を見いだし、様々なスタートアップ企業が登場している。
しかし、若年人口の拡大やモバイル技術の普及率の高さから、APAC諸国が最も高い成長率を示すと予想されている。シンガポール、インド、香港などの経済圏は、世界市場におけるインシュアテックのハブとして台頭しており、潜在的なインシュアテック・スタートアップ企業の数が増加している。
COVID-19のパンデミックは、世界のインシュアテック市場に有利な成長機会を提供した。Willis Re(世界有数の再保険アドバイザー)によると、インシュアテック(InsureTech, 保険技術。以下「インシュアテック」)のスタートアップ企業への世界の投資額は、2021年1~9月期に105億ドルとなり、過去最高を更新した。2020年第3四半期の投資額は31億ドルで、パンデミックに見舞われた2020年第3四半期から23%増加した。2億500万ドルを調達したThe coalitionと1億8,500万ドルを調達したAt-Bayは、この四半期で最も重要なディールであった。
世界のインシュアテック市場では、医療保険、住宅保険、個人保険など、様々な保険を顧客が選択できるようになっている。保険契約への需要が高まるにつれ、保険会社による先進的なテクノロジーソリューションの利用が市場で急速に拡大し、保険会社は顧客に高度な技術を駆使したサービスを提供できるようになった。その結果、世界的な健康危機の中でインシュアテック・ソリューションの需要が急増したのだ。
インシュアテック企業は、業界のシナリオの変化に対応するため、設備投資を通じて大きな成長を記録した。またパンデミックは、顧客エンゲージメントと仮想インタラクションを強化するためのクラウドコンピューティングなどの技術の採用を後押しした。保険会社がインシュアテックへの投資と導入を推し進め、顧客中心主義、知的手続き、営業やクレームにおけるバーチャルインタラクションの加速、競争力維持のためのコスト削減など、数多くの分野に注力するようになった。さらにインシュアテックは、保険会社が保険契約希望者の間で自社のサービスを実証するためのプラットフォームを提供し、このような未曾有の時代にも売上を伸ばし、ビジネスを浮揚させることに貢献したのだ。
競争力のあるインシュアテック市場の主要プレイヤーは、Zhongan Insurance、Damco Group、Wipro Limited、DXC Technology Company、Trov Insurance Solutions, LLC、Majesco、Shift Technology、Oscar Insurance、 Quantemplate、 OutSystems、Clover Health Insurance、Moonshot-Internet、Acko General Insurance Limited、ThingCo、Tractable、 Halos、Sorcery、 Sureify、 Insurance Technology Servicesなど著名プレイヤーである。
世界のインシュアテック市場は、生命保険・損害保険分野の需要に応える多数の小規模事業者が存在するため、その性質上、断片的だ。人工知能、機械学習、ブロックチェーン技術など、保険分野における技術的な改善への嗜好が高まる中、ここ数年、取引件数は着実に増加している。インシュアテック企業が新商品を生み出すことで保険業界のイノベーションを促進することは保険会社が顧客のニーズの変化に対応することを支援することになる。その結果、様々なインシュアテック企業が、新しく多様なサービスを提供することで人気を博している。彼らはまた、大きな投資を集めており、それが彼らの拡大を後押しすることになる。例えばインシュアテック企業は、ディープラーニングに対応した人工知能(AI)を採用し、代理店の責任管理をより迅速に行い、ユーザーの保障を完成させるために最適な保険の組み合わせを決定することを支援している。ML(機械学習)、AI(人工知能)、RPA(ロボットによるプロセス自動化)を組み合わせたハイパーオートメーションは、迅速なサービス、モバイル技術、低い運用コストを提供することで市場での差別化を図る、急速に成長するインシュアテック・スタートアップ企業の間ですでに人気を博している。さらに、この市場では、パートナーシップ、M&A、ジョイントベンチャーなどの競争戦略の採用も目立つ。
本レポートの詳細な分析により、世界のインシュアテック市場の成長性、今後の動向、統計に関する情報を提供する。また、市場規模全体の予測を促進する要因も取り上げている。当レポートは、世界のインシュアテック市場の最新技術動向と、意思決定者が健全な戦略的意思決定を行えるような業界洞察を提供することを約束するものだ。さらに、市場の成長促進要因、課題、競争力学についても分析している。
表題画像:Photo by Luke Chesser on Unsplash (改変して使用)