イスラエルのスタートアップに資金が流れ込む「すべてがステロイド状態」

イスラエルの技術系エコシステムでは、技術者のユニコーン化、記録的な資金調達、高額評価などがほぼ毎日のように報道されている。

200社以上のイスラエルスタートアップのデータにもとづき最近発表された「Startup Snapshot」レポートによると、イスラエルスタートアップのキャッシュフローは2021年5月現在豊富であり、地元のイノベーションシーンは脚光を浴びているようだ。COVID-19は困難をもたらしたが、イスラエルの国内企業はピボットとイノベーションの適性を証明し続け、2021年の最初の3カ月間で53億7,000万ドルという記録的な資金を調達した。

「過去2年間で非常に多くの新しい資金がイスラエルのエコシステムに飛び込んできており、多くの新しい投資ファンドや、展開する資金を持っている新しい投資家がいます」と同レポートの著者の一人であるIntel Igniteの副社長兼GMのTzahi Weisfeld氏はNoCamelsに語っている。

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イスラエルのスタートアップ・エコシステムのデータ共有プラットフォームであるStartup Snapshotは、Y. Benjamin Strategic MarketingがLeumiTech、Intel Ignite、Fiverrと提携してまとめたものである。

「資金は流れている」とパートナーのYigal Arnon & CoとConsiglieriのCEOであるNimrod Vromen氏はプレスリリースで語っている。「2021年、投資家は今日の不確実な市場環境の中で自らを守ろうと、経費や継続的な事業活動に、より積極的な関与を求めています。」

「すべてがステロイド状態です。政府は過去数年間に十分な速度で行動してこなかったことを理解しているため、多額の投資をしようとしています。そのためテクノロジーに多くの資金が投入されることになるでしょう」とWeisfeld氏は話している。

イスラエルのテックエコシステムでは、テックスタートアップ企業のユニコーン化、記録的な資金調達、高額評価などがほぼ毎日のように報道されている。

2021年5月27日の週は、Salt Securityが7,000万ドルの資金調達を発表、Wizは1億2,000万ドルの資金調達を行い、Valensは11億6,000万ドルの評価額でニューヨーク証券取引所に上場する予定だ。

「COVID以前と比較して、ラウンドをクローズするスピードはほぼ半減しており、29%の企業が2カ月以内にラウンドをクローズしています」とWeisfeld氏は言う。

「COVID-19が初期段階のスタートアップ企業に与える影響を目の当たりにするのは興味深いことです。パンデミックが始まった当初、これらの新興企業は資金調達の面で不利な状況にありましたが、市場の資本が過剰になったことで、初期のラウンドでは高水準の投資が行われるようになりました。

一方で、不確実な市場環境に鑑み、投資家は保護を求め、取引を成立させるための制限を求めるようになっています。このような理由から、スタートアップ企業は資金調達方法の多様化を求め、クレジット商品がポートフォリオの中でより重要な位置を占めるようになると思います」と、LeumiTechのビジネスセンター長であるNurit Pirani氏は述べている。

さらにCOVID-19が中小企業や起業家に与える世界的な影響について、OECDの分析ではスタートアップの資金調達が盛んな国の1つとしてイスラエルを挙げている。

Weisfeld氏はイスラエルのイノベーターコミュニティについて、「私たちは問題を解決することになると、非常に素早く行動します」と語っている。

Startup Snapshotのレポートでは、イスラエルのスタートアップ企業がCOVID-19で揺れる今日の市場でどのように成長しているか、チームを強化し、資金を増やし、海外の新しい拠点に進出しているかを紹介している。

このレポートでは、イスラエル国内雇用市場の競争力のために、約13%のスタートアップ企業が従業員を雇用するために海外に目を向けざるを得なくなっていることを挙げている。

COVID-19の影響はビジネスのやり方も変えている。同レポートによると、ハイテク分野で成功するためには企業はリモートワーク、在宅勤務、オフィス勤務の新しいハイブリッドモデルを導入する必要があるという。

この新しいハイブリッドの状況にはプラスとマイナスの面がある。在宅勤務やリモートワークがビジネス用語の一部になったことで、創業者は従業員がどこに拠点を置くかという点で制限を受けなくなった。またレポートでは、21%の企業が新入社員がどこで働いているかはもはや重要ではないと回答している。

また対面での営業が望ましいとはいえ、録音されたビデオ通話を聞けることにはメリットがあるとWeisfeld氏は話している。

「セールスの初期段階では、顧客が何を期待しているのか、何を求めているのかを創業者が理解することが重要です。私たちはスタートアップ企業や創業者と協力して、対面式での営業よりも深く話を聞くようにしています。現在では、録音に戻って『今、相手が言ったことをよく聞いてみよう』と言うことができるようになっています。以前にはなかったことですが、録音された通話から多くのことを学ぶことができるのです。これはプラスですね。」

一方で、リモートでのコミュニケーションは、ビジネス関係や販売に悪影響を及ぼす。

「人を集めてアイデアを出し合う力は重要ですが、今の私たちにはそれができません。ハイブリッドな未来ではこのニーズが重要であるため、何らかのソリューションを提供しなければなりません。自発的にミーティングを設定できないことが、起業家を苦しめています。」

「過去9カ月間に資金調達を行ったスタートアップの41%は、投資家と直接会わずに資金調達を行っています。対面での交流がデジタル会議に取って代わられたことで、初期段階のスタートアップ企業は、直接会ったことのない投資家との信頼関係を作るのに苦労しています。Y. Benjamin Strategic Marketingの創業者であるYael Benjamin氏は、『これに成功したスタートアップ企業は、膨大な国際的資金調達とビジネスチャンスを手に入れることができるでしょう』と述べています。」

また、近未来は全体的にバラ色のように見えますが、企業の成長が早すぎるというリスクは確実にあるようだ。

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「大きな失敗は必ず起こります」と30年にわたりハイテク消費者市場と企業市場で経験を積んできたベテラン経営者であり、連続起業家でもあるWeisfeld氏は語る。「SPAC現象や、超大型の資金調達ラウンドでは、痛みを伴う終わり方をするものもあります。しかし、一般的には、資金の流れが大きくなることで、より多くの技術実験やスタートアップに資金を提供する機会が増えると思います。最大の課題は、人材が不足していることです。」

失敗から立ち直ることは、一般的なイノベーション、特に地元の技術分野ではよく言われることである。「この業界に身を置くには素晴らしい時代です」とWeisfeld氏はまとめている。


翻訳元https://nocamels.com/2021/05/funds-flowing-into-israeli-startups/

表題画像:Photo by NEW DATA SERVICES on Unsplash (改変して使用)

記事パートナー
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執筆者
中嶋 清楓 / Sayaka Nakashima
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