フリーミアムとは、新規事業や新製品をグロースさせるために採用するビジネスモデルのひとつだ。2020年現在、日本・海外を問わず多くのプロダクトでこの手法が採用されている。
フリーミアムは、プロダクトの基本機能を無料で提供し、拡張機能は有料で提供するビジネスモデルだ。
有名かつ日本でもなじみ深いものには、日本経済新聞電子版がある。The New York Times他、新聞の電子版、記事配信系メディアにも多く採用されている。無料会員は1カ月に〜10記事程度を閲覧でき、それ以上の記事数を閲覧したい場合は月額の有料会員になるよう誘導される。
日経BPマーケティング『Hacking Groth グロースハック 完全読本』の中にこのような文章がある。
「わたしが社会に出たのは1994年。世の中のビジネスはWebに移行しつつあったが、ビジネス専門誌の広告営業をしていた私はソフトウェア工学について全くの素人だった。しかしWebビジネスに将来性を感じていたので〜(略)〜この成功があって、私はアップロアの創業者が次に立ち上げたベンチャー企業、ログミーインの成長も手伝ってほしいと頼まれた。〜(略)〜いろいろと変えてみたが、コンバージョン率は恐ろしく低いままだった。すばらしく役に立つことが明らかで、基本機能は無料で使えるサービスなのに、である。」
興味深いのはここからだ。
「手始めに、一度サービスに登録したのに解約してしまったユーザーからフィードバックをもらおうと、登録時に記入されたアドレス宛にメールを送り、『なぜログミーインを使わないのか?』と尋ねた。今なら珍しくもないことだが、当時としては斬新なアイデアだった。」
「そうして回答を集め始めてわずか数日で、問題の原因がありありと見えてきた。彼らはログミーインが無料のサービスだという私たちの言葉を信じていなかったのだ。まだフリーミアム形式のソフトウェアが出始めた頃で、多くの人の目にはうますぎる話だと映ったのも無理はなかった。」
今は普通に導入されるフリーミアムモデルにも、浸透していなかった時代があるのだ。人々は「うますぎる話」だと思っていた。新しいものは、慣れる前に必ず疑われ、懐疑的な意見が投げられる。
フリーミアムは90年代〜2000年代初頭から20年以上経過し、現在は多くのプロダクトに導入されている。
Googleのアカウントでは、Googleドライブ、Gmail, Googleフォトで合計15GBの容量を無料で利用できる。
DropboxのBasicと呼ばれる無料アカウントでは、2GB のストレージを利用できる。
Slackのフリープランでできることは3つ、メッセージの表示における閲覧と検索の範囲が直近のメッセージ10,000件まで、ファイルストレージは5GB、インストールできるサードパーティ製アプリやカスタムアプリは最大10個。
Amazonのプライム会員は追加料金なしで200万曲が聴き放題、有料のUNLIMITEDプランへアップグレードすると7000万曲が聴き放題となる。
Amazonは他にAudible(オーディオブック)で、1冊は無料で聴くことができ、それ以降は有料の月額プランへ誘導している。
最大5名で全機能を利用することができ、利用データは14日間保存される。有料のプランはユーザーあたり月額900円、全機能を利用することができ、メンバーを無制限で追加でき、無制限のストレージを有する。
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メールボックスのカオスを解消するメール効率かツールdweboxもフリーミアムモデルを採用している。月額プランの金額は高額でなく、アップグレードの敷居も低い。
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無料プランと、有料の3プラン、合計で4つのプランが用意されている。有料プランは金額に応じて利用できる機能が異なる。
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DeepLのフリープラン英日翻訳で一度に翻訳できるのは5000文字、それ以上の文字数を翻訳したい場合は有用のDeepL Proプランへのアップグレードが必要。
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2020年についに日本に上陸したヘルスケア/瞑想アプリCalmもフリーミアムモデルを採用している。toCに対してフリーミアムモデルを採用し、なおかつtoBに対しても事業展開をしている。
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デザイナーのようにデザインの知見がなくても簡単に美しくセンスの良いイメージなどを作ることのできるデザインツールCanvaもフリーミアムモデルを採用している。無料テンプレートやデザインモデルも豊富に用意されているが、有料の2つのプランでは、できることがさらに増えたり、ストレージ容量が増えたりする。
フリーミアムモデルはtoBとtoCのプロダクトの両方に使われる。SUNRYSE. では3000社以上のスタートアップ企業を紹介しているが、そこのデータからも分かるように、非常に多くのスタートアップ企業が自社の価格設定に導入をしている。
フリーミアムモデルはtoB,とtoCの両方に導入可能であるが、デジタルプロダクトと親和性が高い。
利用者のメリットは、無料でも基本機能を使うことができる点だ。多くの人が活用している基本機能を、自分でも試してみることができる。デメリットは、有料へのアップグレードのほとんどが月額利用料で設定されている点
だろう。特定の1機能だけを利用したい場合でも、月額での支払いを求められるモデルがほとんどだ。
提供側のメリットは、自信のある自社プロダクトの良さを手っ取り早く伝えることができる点だ。「百聞は一見にしかず」であり、自分の目で見て、使って初めてわかることは多い。より多くのユーザーに基本機能を利用してもらうことで、自社の営業担当がメリットを羅列して説明するでもなく、ユーザー自身がプロダクトの良さを体感できる。
デメリットは、フリーミアムの無料 / 有料のボーダーラインをうまく設定する必要がある点だ。
フリーミアムモデルを導入すると、無料で使うことに慣れているユーザーは「ずっと、無料で使い続ける」ことがある。「毎月100円(税込)の課金」などごく少額に見えるような金額を求めるだけでも、ユーザーによっては「無料ではない」ことへ抵抗を感じる。
しかし、どこまでを無料で提供して、どこから有料で提供するか、その境界線の設定は非常に重要である。「無料で利用できる範囲」をうまく活用して、課金をしないユーザーも存在する。
基本機能を無料で提供してファンを作り、利便性の高さをアピール、ユーザーの生活に欠かせないプロダクトになったところで、痒いところに手が届く有料の追加機能のために課金をする。このような導線を描くことが望ましい。有料へのアップグレードがなかなか行われない場合は、無料と有料のボーダーラインの見直しも検討しよう。
前払い方式を採用していたプロダクトにフリーミアムモデルを導入、導入後3日間で平均7万2千ダウンロードを記録し、「運動の記録とカスタマイズ機能」はアプリ内課金にしたところ収益も急成長したというワークアウトアプリも存在している。このプロダクトは、約97%ものユーザーが無料機能しか使っていないが、フリーミアムモデルの導入によって全体収益は4倍に伸長した。
初期に設備導入の設置の手間や初期導入費用を要するプロダクトとの親和性は低く、ビジネスモデルとしてフリーミアムを取り入れることは難しい。
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革新的な室内用の水耕栽培キットを販売するNY発スタートアップ企業
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商品を手に取り外に出るだけで自動で支払い完了 レジに並ぶ必要のない全自動チェックアウトソリューションを提供
この2社共に、非常に面白いプロダクトだ。しかしながらこのような、最初に設備の投資が必要なプロダクトとフリーミアムモデルはフィットしない。
フリーミアムモデルは、今後もデジタル製品におけるマネタイズの手法として利用され続けるだろう。
ビジネスモデルやマネタイズの手法も、技術の発展に応じて変化する。マーケターやグロースハッカーは、その動向を常にキャッチしながらセールスチームなどと連動し、素晴らしいビジネスモデルの探索と挑戦を続けよう。
日経BPマーケティング『Hacking Groth グロースハック 完全読本』