時代に逆行?:コロナ禍で急成長中のフードデリバリーと環境問題の行方

日本でも急成長中のフードデリバリー。需要拡大の一方でプラスチック容器等を使用することで発生する環境問題が浮き彫りになっている。
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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの産業が打撃を受けている一方でいくつかの分野ではこれまでにない爆発的な成長が起きている。

フードデリバリーはその最たる例であり、日本においてもコロナをきっかけにその認知度や普及度は格段に伸びたと言えるだろう。

そもそもフードデリバリー市場はコロナ禍以前も成長を続けている分野であったが、コロナをきっかけにしてその成長は予測不能なほどに拡大しているのである。

一方で、フードデリバリー市場の拡大は新たな問題を生み出している。

というのも、デリバリーサービスの多くは食べ物の容器としてプラスチック製品を大量に使用しており、これまで多くの国で行われてきたプラスチック削減の運動に逆行する形となっているのだ。

今回は拡大を続けるフードデリバリーの現状とその問題点、そして解決にむけた取り組みを紹介する。

A. 空前のブームにあるフードデリバリー市場

1 世界市場

現在のフードデリバリー市場は、世界的に見ればUberを始めとするインターナショナルなプレイヤーといくつかのローカルな有力プラットフォームがシェアを分ける形となっている。

国や地域によってシェアの様相は異なり、例えばアメリカでは2020年に入ってから市場規模がそれまでの約2倍にまで拡大したが、特に大きなシェアを獲得しているのはUberよりもDoor DashGrubhubといった米国(一部英国)ローカルの事業者である。

そのほかにも、GoJekGrab FoodFoodpandaYandexJust Eat Takeaway美団点評、などの各国大手が競争を激化させている。

特に東南アジアではその市場規模が2025年までに2015年の約50倍にまで達するという予測も存在しており、成長速度は群を抜いている。

2 日本市場

日本は「フードデリバリー」に関して、意外にもそれなりの歴史を持っている。

そもそも蕎麦屋や寿司屋、中華料理店に代表される個人店舗による「出前」と呼ばれる文化が一般的であった(むしろ近年では減少傾向にあるだろうが)ことや、大手のチェーンでもピザなどのデリバリーサービスを展開する企業は多かったことから、飲食店から自宅まで食事をデリバリーするというスタイルに違和感を抱くユーザーは少ないだろう。

とはいえ、自社ではなく特定のプラットフォーム(Uber等)に店舗側が登録して、その配達員がピックしてデリバリーするというスタイル(例外はあるが)は近年急成長中のものである。

プレイヤーとしては国内系最大手の出前館をはじめ、米大手のUber Eatsなどがコロナ禍以前から抜群の知名度を誇っていた。

そして、まだ統計情報は出ていないが、2020年に入ってからのコロナ禍で、国内のフードデリバリーサービスがさらなる注目を集めていることは確実だ。2020年9月までで約36,000店舗の登録を達成したMenuや中国大手のDiDiによるDiDi Foodなど、新興のプレイヤー参入も相次ぎ、フードデリバリーの世間での認知度は大きく向上したと言えるだろう。

B. 再燃する環境問題

日本でも世界でも大きく市場規模を拡大させているフードデリバリーだが、その成長の一方で新たな問題も発生している。

その一つが今回のテーマである「環境問題」だ。

特にデリバリーという性質上、そのやりとりでプラスチックの容器やビニール袋を使用するケースが多く、昨今のプラスチック削減の流れには完全に逆行する形となっている。

そもそも、現在では年間5兆枚を超えるビニールのレジ袋が消費されているという。これはもはや日常生活においてプラスチック製品が必要不可欠になっていることを示しているだろう。

1990年代から急激に増加したプラスチック製品の消費量については、2000年代に入ってそれまでの40年間で消費した量の約3倍をたった10年で消費したという報告もある程である。

そんな中でプラスチック製品を大量に使用するデリバリーサービスが流行することは環境にとっても大きな影響を与えかねない。

実際にタイではコロナ禍の需要急増で例年以上のプラスチックゴミが発生しているとの報道もなされている。世界全体でデリバリー需要が急増している状況で、プラスチック製品の使用量増加はもはや避けられない自体なのである。

この問題に対して、世界中で見直しの動きが広がっている。

まだ火は小さいが、国連のSDGsなどが注目されている中で、より現状に即した対策が求められていることは明らかであろう。

そこで今回は、フードデリバリーやテイクアウトの環境問題に取り組む企業やキャンペーンを紹介する。

1【Zume】デリバリーでも利用可能な植物由来の容器を開発

Zumeは元はトラックの荷台でピザを自動調理しデリバリーするというサンフランシスコでも注目の高いデリバリースタートアップであった。

同社はソフトバンクなどからの支援も受け事業を拡大していたが、その一つに自社製品の容器を全て自然由来にするというプロジェクトがあった。この目標のために同社は植物由来パッケージの開発企業Pivotを買収し、自社サービスに取り入れていた。

現在ではピザ事業からは事実上撤退しているが、パッケージの開発事業は継続して行われているという。

同社のパッケージは皿やコップ、ボウルなど多岐に渡り、サトウキビをはじめとする植物に由来する素材で作られている。アメリカは世界的にもフードデリバリーが早くから盛り上がっていた地域であるだけに今後の動向が注目されている。

2【WWF Hong Kong】香港のデリバリー業者と共にキャンペーンを展開

WWF(世界自然保護基金)の香港支部は、市内で増加し続けるフードデリバリーサービスに対して、使い捨てプラスチック容器の削減やエコフレンドリーな包装の利用促進を求めるキャンペーンを展開し、これに市内でも大きな勢力を誇るFoodpandaDeliveroo参加することとなった。

そして、これにより2025年までに香港の参加事業者内でプラスチック製品の利用を一掃することを第一の目標に掲げることとなった。

3【Swiggy&Zomato】インド発、飲食店向けのエコフレンドリー容器マーケットプレイス

インドではフードデリバリーユニコーンのSwiggyZomatoの2社が、それぞれ

飲食店向けに環境に優しい容器のマーケットプレイスを展開している。

インドではまだ珍しい環境配慮の取り組みだが、このマーケットプレイスの存在によって、飲食店は気軽に環境問題に対して自身のビジネスの中で参画を果たすことができるようになった。

両者は国内スタートアップとしてかねてより植物由来の容器などの導入を進めており、飲食店側にとってもプラットフォーム自体が運動に積極的なことは大きなメリットであると言えるだろう。

4【TAKE PACK】日本発、サステイナブル素材で作られたテイクアウト用パッケージ専門店

包装資材メーカーのTP東京が立ち上げたEC「TAKE PACK」は、全てサステイナブルな素材で作られたパッケージを飲食店向けに販売しているという。

取り扱いの種類も多く、日本でもまだ珍しい専門店の登場で今後の新しいムーヴメントに期待がかかっていると言えるだろう。

5 【LIMEX】紙も水も無駄にしない。石灰石由来の新容器

石灰石由来の名刺などを手掛けるLIMEXによる新しい製品として、紙や水資源などにも配慮したランチボックスが発売されている。

同社のオンラインストアで販売されており、耐熱性に優れ、石油由来樹脂の使用を約40%も削減できるという。

日本におけるUber Eatsなども2019年に入ってから、使い捨てカトラリーの有無をオプションで選択できるようになったりと、フードデリバリー各社の取り組みが少しずつ始まっている。

とはいえまだまだ世界的にもデリバリー業界全体の環境に対する意識は低いと言わざるをえない。

今後ますますの成長を遂げると見られているフードデリバリー。

便利さの追求と共に地球環境への配慮がさらに一般的なものになる将来はいつやってくるのであろうか。

※本記事における情報は全て2020年9月現在のものです。


   

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執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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