Photo by American Public Power Association
クリーンテックは、環境負荷の低減に重点を置き、商品やサービスの開発・生産に注力しつつ、持続可能な開発を支援・促進している領域のことを指す。風力や太陽光発電、バイオエネルギー、スマートグリッドシステムなどの再生可能エネルギーやエネルギー効率化技術、循環型生産プロセスや再利用可能な製品の開発、システム統合、サプライチェーンに焦点が当てられている。(参照)
2000年代初頭、クリーンテック産業はVCを中心として250億ドル以上の投資の流入により、急成長を遂げたが、結果的にその半分以上を失うこととなった。この時期に資金を獲得したクリーンテック企業の90%以上は、投資された資金を回収することができず、後に失敗とみなされた(参照)。マネタイズ面では失敗したとはいえ、その投資第一波は、シードレベルを超えて成長する可能性を秘めた、次世代のクリーンテック企業の基礎を築いた。
Slush Day1のアンフィシアターでは、「Cleantech 2.0」と題して、クリーンテックへの投資第一波(Cleantech 1.0)を経験したインパクトインベスターらにより、当時の状況や教訓、そして今後の脱炭素化後の社会やクライメートテックの未来について議論が行われた。登壇したのは、「Future shape」のTony Fadell氏、「G2 Venture Partners」の共同創業者であるBrook Porter氏、「Valo Ventures」のパートナーであるJulia Trotman Brady氏、そして「Obvious Ventures」のAndrew Beebe氏の4名である(参照)。
引用:Petri Anttila, Slush Helsinki 2021
トークセッションの冒頭に、Andrew Beebe氏が2021年までの約四半世紀にわたるクリーンテック業界の変遷について触れた。登壇者らがクリーンテック業界に参入した2000年初頭は、注目度が低く、投資家を探すことも容易ではなかったそう。加えて、当時は強力なファウンダーが少なく、ユニコーンとなった企業も限られていた。その中から、「Proterra」や 「Northvolt」、「Quantum scape」「Perfect Day」「Beyond meat」などを含む数十社のユニコーンが登場し、今日注目を集める業界へと変化を遂げた。
また、2021年の「Goldman sachs」のレポートでは、地球規模で直面している気候変動問題に対処するため、今後3-8兆円の投資が見込まれると報告されており、クリーンテック業界の成長が期待されている(参照)。
クリーンテック業界が変化を遂げた理由として、多くの登壇者から、消費者・社会の意識変化が挙げられていた。2000年代初頭は、クリーンテックに対してニュートラルな状態であったが、グレタ・トゥーンベリ氏の活動をはじめとし、若者を中心とした消費者の意識・行動に変化が現れ、消費者からクリーンテックを求められ始めた点が大きな違いだそうだ。
Julia Trotman Brady氏は、10月に開催されたTED COUNTDOWN SUMMITでの出来事について触れた。そこでは、環境に配慮した営利活動への転換に苦戦している「Maersk」や「 Volvo」、「United Airline」などの大企業らが自ら手を挙げ、クリーンテック業界への助けを求めたそうだ。
クリーンテックに関して遅れているとされるアメリカでも、半数以上の人が問題意識や行動変革の必要性を感じている現状があるという。そして、今後のクリーンテック普及は、政府主導ではなく、ビジネスによって促進されていくことが予想されている。
石油産業や化石燃料産業に関しては、その産業に関わる企業自身も少なからず課題に向き合う必要があると話題に上がった。現在の石油産業は地中から1日約5ギガトンの資源を取り出し、さらにそれらを輸送し燃焼させて使用する。ゼロエミッションを達成するためには、最終的に大気に放出された約10ギガトンの物質を大気から取り除く必要がある。これは非常に困難な課題であるため、多くの企業がその課題に挑戦できず、足踏みをしている。
しかしながら、Brook Porter氏によると、課題に立ち向かうためのクリーンな化学製品や燃料製造に使用する設備の多くは、初期のインフラ整備コストが安く、石油や化石燃料産業と比較しても、より多くの利益があげられると話す。また、石油や化石燃料産業が消費者のニーズと逆行していることは、同時にその課題へ立ち向かうことが、次の成功への大きな可能性を秘めているということも述べられていた。
トークセッションの後半では、クリーンテック業界における注目の動向について議論が行われ、やはりここでもサーキュラーエコノミーに関する話が登場した。
参考記事:GREEN WORK HAKUBA 参加レポート1: キーノートステージ
Julia Trotman Brady氏は、サーキュラーエコノミーの中でも特にリユースとリサイクルに触れており、特にリサイクルしづらい素材やプラスチックの加工技術に関しては発展の余地があると述べていた。
また、Brook Porter氏が以下3つの注目すべきトレンドについて紹介した。1つ目はサーキュラーエコノミーに基づく食糧生産システムである。現在の食糧生産システムは環境破壊だけではなく、健康被害も同時に引き起こしており、新しい食糧生産システムが必要とされている。2つ目は技術メガトレンドの一つとされるオートメーションである。ロボット工学やマシンビジョン、製造、サプライチェーンやロジスティクスの効率化を促進する革新的な技術である。3つ目は核融合であり、ゴミの山に含まれる鉱物や材料をエネルギーに変換できる可能性についても触れられていた。
特に1つ目の食糧生産システムに関連しては脱炭素化の切り口からも触れられていた。モビリティ分野の脱炭素化に関しては、既に投資が進み脱炭素化の将来ビジョンが見えつつある。それに続いて、さらに農業の脱炭素化が必要とされており、非常に投資価値の高い領域になることが期待されているそうだ。
Tony Fadell氏は大企業が置かれている状況について紹介していた。大企業で働く人の多くはより地球に優しいものを作りたいと考えているが、そのための十分な教育を受けておらず、支援ツールも十分ではないため、社内でできることが限られてしまう。そこで、スタートアップ企業がソリューションとなるツールを大企業に提供し、今後の新商品開発における戦略決定について、より良い判断を手助けすることができるだろう、と述べられていた。
ディスカッションの最後に、9個のクリーンテックワードに関して期待されるかどうか、登壇者の投票が行われた。
投票に登場したキーワードとして、
1)核融合(fusion)
2)次世代の電池として期待される小型モジュール炉(small modular reactor)
3)グリーン水素
4)燃料電池
5)昆布
6)バイオプラスチック
7)炭素吸収性のコンクリートやセメント、
8)脱炭酸合成肥料(decarbonized synthetic fertilizers)
9)リジェネラティブ農業
が挙げられていた。結果的に登壇者の賛否は別れていたが、SUNRYSEはこれらのトピックに関しては引き続き注視していきたい。
Slush 2021では、トークセッション以外にもブースやデモ・ショーケースなどさまざまな場面でクリーンテックが登場した。
「Climate X」は、2100年までの気候変動に関連する異常気象について、場所ごとのリスク評価と損失予測を提供するインパクト企業である。Slushでは、Climate X Spectraと呼ばれる待望の気候リスク評価ソリューションを独占的に発表した。住所を入力するだけで、数秒のうちに、さまざまな気候変動経路の下での未来を把握することができる。予測データを元に、気候変動に強い未来を構築することを可能にし、保険や建築、エネルギー業界を始めとして、幅広い業界において応用されている。
Slsuh 2021全体を通じてサステナブルやサーキュラーというワードが頻繁に登場していた。加えて、EUで国境炭素税(Carbon border tax)の導入が決定し、2022年も引き続き、脱炭素を中心としたクリーンテック業界の成長が予想される。脱炭素までの道のりは各国によって様々だが、日本でも脱炭素の流れを他人事として捉えず、消費者を主体とした意識・行動変革によるクリーンテック業界の成長に期待したい。
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