サーキュラーエコノミーは循環の組み合わせへ

サーキュラーエコノミーの次の段階として、複数のレベルの異なる循環を組み合わせ、より持続可能性の高い循環経済系を構築する取り組みが広まっている。
サーキュラー・エコノミー SDGs

欧州を中心に、従来の直線型の経済が循環型の経済に置き換わりつつある。サーキュラーエコノミーの実装は、技術開発や新しいビジネスモデルの構築によって単一の循環を構築する取り組みから始まった。次の段階として、複数のレベルの異なる循環を組み合わせ、より持続可能性の高い循環経済系を構築する取り組みが広まっている。

バタフライダイアグラム

エレンマッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーにおける循環の様子を、「バタフライダイアグラム」として示している。

画像:Ellen MacArthur Foundation

バタフライダイアグラムの右側は技術的サイクルと呼ばれ、金属などの枯渇性資源の循環を示す。一方、左側は生物的サイクルと呼ばれ、農作物や木材などの再生可能資源の循環を示す。注目すべき点は、内側の循環ほど価値が高いとされている点だ。例えば、リサイクルは最も外側の循環であり、その内側にリユースやシェアリングといったより優れた循環が存在している。

全ての資源をこの循環に載せ、できるだけ内側の循環で経済を成立させるのがサーキュラーエコノミーの基本的な考え方だ。

資源の循環をモノのスケールで捉え直す

直線的な経済では、モノは材料・部品メーカーから製品メーカー、サービス提供者、消費者へと移動し、最後に廃棄される。バタフライダイアグラムは、そのプロセスで登場する会社やユーザーを中心に据えて、それぞれの循環を位置付けている。

ここでは、循環するモノの状態を「分子」「原材料」「パーツ」「プロダクト」に分類し、物質を中心にして資源の循環を捉え直したい。

上の図では、最も内側のプロダクトからプロダクトへの循環から、最も外側のプロダクトから分子レベルの状態を経てプロダクトに戻る循環まで、合計4つのレベルの循環が存在する。バタフライダイアグラムの循環と同様に、内側の循環ほど環境負荷が小さく、持続可能性の向上に寄与する。

この4つの循環について、それぞれ代表的なビジネスモデルや実現のための技術を解説する。また、それぞれの循環を実現するスタートアップの取り組みをSUNRYSEのデータベースから紹介する。

1. プロダクトレベルの循環

キーワード: シェアリングエコノミー, サブスクリプション, Product as a Service

最も内側の循環では、エンドユーザー向けのプロダクトはそのままの形で他のユーザーに利用される。

代表的なビジネスモデルは、シェアリングエコノミーやサブスクリプションだ。Product as a Service(PaaS)は、プロダクトを販売する代わりにサービスの提供に対して課金するビジネスモデルだ。売り切りではなく、解約後にサービス提供者のもとに製品が戻ってくるため、製品寿命の延長が可能になる。

ShareMyBag

ファストファッションの成長から、製造された衣服の85%がゴミとして捨てられるなど、大量生産や廃棄物がファッション業界の課題となっている。「ShareMyBag」は"Buy less, Rent more"を掲げ、洋服やアクセサリーをレンタルできるプラットフォームを提供している。

SUNRYSE | ShareMyBag

2. パーツレベルの循環

キーワード: リペア, リファービッシュ

パーツレベルの循環では、製品はパーツの補修や交換によって再生され、再び他のユーザーの手に渡る。

リファービッシュとは、中古製品や不良品を新品同様に整備して再度出荷することや、その製品を指す。新しい製品の製造と資源の使用を減らし、製品寿命を延長する。

Refurbed

「Refurbed」は、携帯電話やラップトップ、タブレットなどの再生品を販売するマーケットプレイスを提供している。再生品の流通は電子機器の新しい生産と廃棄を減らし、電子廃棄物による環境問題や資源の枯渇に有効だ。

SUNRYSE | Refurbed

3. マテリアルレベルの循環

キーワード: マテリアルリサイクル

マテリアルレベルの循環では、使用されたプロダクトは原材料の状態にまで分解され、再度他の製品の製造過程で利用される。分解や再製造のためのコストが生じるため、プロダクトレベルの循環やパーツレベルの循環に比べて環境負荷が大きい。劣化や破損によって、パーツとして分解しても機能を果たさない状態になった製品に対して有効な循環だ。

Li-Cycle

「Li-Cycle」はリチウムイオンバッテリーのリサイクル技術を開発している。性能低下などを理由に使用されなくなるリチウムイオンバッテリーは、2030年には370万トンに及ぶと予測されている。これらのバッテリーは一般に廃棄されることが多かったが、「Li-Cycle」の技術ではリチウムやニッケル、コバルトなどバッテリーに必要な金属の取り出し及び精製が可能だ。(数値情報は全て「Li-Cycle」HPより引用)

SUNRYSE | Li-Cycle

4. 分子レベルの循環

キーワード: ケミカルリサイクル

分子レベルの循環は、製品を分子レベルまで分解し、再度原材料として精錬する循環だ。最も外側に位置するため負荷やコストも高く、他の循環では性能や価値を維持できない場合に用いられるべき手段だ。一方で、分子レベルの循環によって純度の落ちた原材料や劣化した材料を、再度バージン材と同じ品質に回復することができる場合もある。

Worn Again Technologies

「Worn Again Technologies」は、廃棄された古着やペットボトルから新しい衣料品用の素材を創り出す技術を開発している。同社は、高度なリサイクル技術の開発によりテキスタイルやポリエステルボトル、包装材からポリエステルとセルロースを分離、除去、抽出することを可能にしようとしている。

SUNRYSE | Worn Again Technologies

なお、分解のレベルを「分子」「原材料」「パーツ」「プロダクト」の4段階としたのは簡易的なモデル化であり、実際にはさらに多くのレベルの循環が存在することに注意が必要だ。例えば、プラスチックという材料を一つとっても、

  • プラスチックの小片まで分解する循環

  • ポリマーの鎖まで分解する循環

  • モノマーまで分解する循環

  • CO2やH2Oまで分解する循環

というように、先述した4つの区分けの間に位置する、より細かなレベルの循環が存在する。つまり、あるモノに関する循環は、より多重のレベルの循環で構成される。

重要な点は、よりサーキュラリティ(循環性)の高い経済システムは、異なるレベルの循環が組み合わさって実現されるということである。

外側の循環ほどステークホルダーが増加する

異なるレベルの循環は、外側に行くほどステークホルダーが多くなる。循環の輪が大きくなると、その循環を成立させるために必要な技術や企業が増加するためだ。

先ほどの循環図を用いて、プロダクトレベルの循環と分子レベルの循環を比べてみよう。プロダクトレベルの循環(青)では、循環は小さく、そこに関わる企業も少ない(もちろん、最終的にはその製品自体に循環性があることが重要になるため、より上流の工程も関わってくることには注意が必要だ)。一方で、分子レベルの循環(赤)では、循環が大きく、関わる企業が多くなるのが理解できる。例えば、ケミカルリサイクルを行う企業、材料メーカー、部品メーカー、組み立てメーカーなどが循環に関わることになる。

ステークホルダーの増加によって課題が生じる。

第一に、トレーサビリティの確保が困難になる。モノを循環させるためには、資源や製品の利用履歴が必要になる。トレーサビリティを確保するために、マテリアルパスポートやプロダクトパスポートなどの取り組みがなされている。トレーサビリティの確保において問題になるのは、ユーザーのプライパシーやトレードシークレットだ。製品がどこでどのように使われたかというデータを共有しつつ、ユーザーのプライバシーを確保する必要がある。また、資源や製品の情報の中には、企業の経済優位性を生み出す情報が存在する。他社を含めた複数のステークホルダーを巻き込んだ循環経済では、トレードシークレットの扱いにも注意が必要になる。

第二に、適切なインセンティブ設計が求められる。サーキュラーエコノミーの実現には、再資源化に必要なデータの共有や資源を有効活用したことに対する適切な経済的インセンティブが必要である。ステークホルダーが増加するほど、適切にインセンティブを与えるシステムの構築が難しくなる。循環を形作る複数のステークホルダーが、それぞれの貢献に合わせて利益を得るような設計になっていなければ、持続可能な経済のあり方とは言えない。

第三に、ステークホルダーの多い循環系は、その複雑さから生じるコストが重荷となって競争力を失う恐れもある。上の指摘をクリアするためのコストが、循環による経済的メリットを上回っている必要がある。

異なる循環レベルの組み合わせへ

これまでに、モノの循環には複数のレベルがあることを紹介した。そして、それぞれの循環は独立しているわけではなく、相互に組み合わさり最適な循環を形成する。可能な限り内側の循環を回すためには、モノの一部はプロダクトレベルで、また一部はパーツレベルで、残りはマテリアルレベルと分子レベルで循環するというように、複数の循環レベルを組み合わせる必要がある。例えば、電気自動車は耐用年数を迎えるまではサブスクリプションで提供され、定期的にパーツレベルのリペアが行われる。また、10年経ってバッテリーが劣化したら、それらはマテリアルリサイクルされ別の製品に生まれ変わるといった具合だ。

サーキュラーエコノミーは比較的新しい概念であり、これまでは1つの循環レベルに着目した取り組みや技術開発が中心であった。リチウムイオンバッテリーのリサイクルや製品のサブスクリプションモデルはその典型だ。例えば、Apple Inc.は複数の循環を組み合わせ、より循環性の高いビジネスプロセスを社内に構築することを目指している。同社は、2030年のカーボンニュートラルを宣言しており、その詳細な計画を環境進捗報告書で明らかにしている。持続可能なビジネスへの転換を迫られる巨大企業は、自社を頂点にこのような巨大な循環システムを構築する動きを見せている。

持続可能な経済を実現する上で、複数の循環が組み合わされることは必然であり、複数企業の関わる循環系の実現へと世界は動いている。しかし、複数の循環が高度に結合され、ステークホルダーが増加するほどシステムは複雑化・肥大化する。その結果、管理のコストは増加し、新しいステークホルダーの参加は困難になり、サーキュラリティはより不透明になる。これらの複雑さを克服した先に、持続可能な経済の理想形があるのではないか。

執筆者
長谷川篤紀 / Atsuki Hasegawa
Coder / Researcher
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