エストニアのスタートアップ業界 2020年版【調査レポート】

電子政府・電子国家エストニア。同国の政府系スタートアップエコシステムであるStartup EstoniaからSUNRYSE.に届いた2020年のスタートアップ業界調査レポートを特別に翻訳掲載。SUNRYSE.はStartup Estoniaとパートナーシップを締結している。
LGBTQ 金融 経営者

2020年は本当に大変な年であった。とはいえ、新たな挑戦や興奮を期待していた人々にとっては、悪いことばかりではなかったかもしれない。この一年間は新たな現実に適応するため、既成概念に囚われない方法を模索するための期間だったとも言えるからだ。

今回はこの隠されたチャンスとも言えた一年間を振り返り、エストニアのスタートアップの現在を調べた。

まずエストニアにおけるスタートアップの総数からだ。2021年2月の時点でエストニアのスタートアップ・データベースには1,117社が登録されている。

2018年には257社、2019年には219社が登録され、2020年はその数は低調だったと言わざるをえないが、それでも113社の新たなスタートアップが登録された。 Atomico社の『State of European Tech 2020』によると、エストニアの一人当たりのスタートアップ数はヨーロッパ平均の4.6倍だ。ヨーロッパのスタートアップ首都と言えるだろう。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

雇用について

人材はあらゆる経済分野の基盤である。幸いなことにこのコロナ禍においても、エストニアのスタートアップ企業達はその雇用率をそれほど下げることはなかった。それどころか、年間で1.2%もの成長を見せた。

Estonian Tax and Customs Board』の統計によると、2020年末の時点で同国のスタートアップ企業は現地で6,072人を雇用している。1年前には5,998人であったため、増加している。

年間成長率は、昨年32%であった。成長率が鈍化した最大の理由はコロナではないとも言える。同国のスタートアップはすでに成熟期に入っているからだ。

Startup Estoniaの定義では、スタートアップは11年以上継続すると成熟した企業とみなし、もはやスタートアップではないと規定している。また7社がイグジットを達成しており、この7社は統計に反映していない。

成熟したスタートアップとイグジットのタイムラインはこちらをご覧いただきたい。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

Startup EstoniaのマネージャーであるMoonika Mällo氏は次のようにコメントした。

「統計はデータを集計する根拠にも影響されます。企業のデータは、その企業が成熟レベルに達するまで、あるいは企業の成功と持続可能性の証であるイグジットを完了するまで考慮されます。

昨年、2020年は数多くのイグジットがあり、いくつかのスタートアップ企業が成熟期に達しました。セクターの従業員数は6072人で、年初には含まれていたはずの、撤退または成熟した企業の従業員797人は反映されていません。これが成長率が小さくなっている理由のひとつです。」

スタートアップ企業で1日以上働いたことのある従業員の総数を見る。その数は大幅に増えている。エストニア統計局によると、2020年の間に8,283人が同国のスタートアップ企業で働いており、同国の労働人口の89人に1人がスタートアップ企業に関わっていたことになる。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

エストニアのスタートアップ企業でトップの採用者数を誇るのは順に、Transferwise(929人)、Bolt(684人)、Veriff(230人)、Paxful(158人)、Starship Technologies(130人)だ。

また、別の視点では、2020年のトップリクルーターリストの構造もよく似ている。同国のスタートアップ上位20社が、2020年にこの分野で創出される新規雇用の52%を占める。これは驚くべき結果だ。具体的にはBoltが185名の新規採用でトップに立ち、続いてPaxfulとTransferwiseがそれぞれ52名と36名を採用している。トップ5には、Ampler Bikesが32人、Comoduleが28人を採用してランクインした。

社員の統計情報

2020年のエストニアにおけるスタートアップ企業社員の人口統計は、2019年と強い類似性がある。エストニアのスタートアップ企業社員の36%が女性で、64%が男性である。年齢で見ても比較的若く、48%が21~30歳、38%が31~40歳である。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

なおエストニアのスタートアップ企業社員の24.4%が外国籍を持っている。そのうち、5.2%がEU市民権、19.2%が非EU市民権を保有している。68.3%がエストニアの市民権を持っており、市民権を確認できなかった従業員は7.3%であった。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

また、スタートアップ企業社員の59%が高等教育を受けている。そのうち、33%が学士号または専門的な高等教育を受けており、24.9%が修士号を取得し、1.3%が博士号レベルの資格を持っている。33%の従業員は、基礎教育、中等教育、または中等教育に基づく職業教育を受けており、7.8%の従業員の学歴は不明である。また、外国人労働者の方が高等教育を受けている割合が高く、その割合は71%という結果だ。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

創業者について

エストニアのスタートアップにおいて、創業者の31%は外国人で、全体の平均年齢は36歳である。女性創業者の割合は約15%にとどまっており、これはヨーロッパの他の地域とほぼ同じである。

バルティック・スタートアップ・シーン 2019-2020』によると、バルト諸国では13%、北欧諸国では18%、中東欧諸国では15%のスタートアップが、男性も女性も含む多様なチームに率いられているとのことだ。また『グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート(GSER 2020)』では、世界全体の女性創業者の割合は14.1%であるとしている。

税金と給与

スタートアップ企業が支払う雇用税は、会社の活力と経済への貢献度を示す重要な指標である。スタートアップ企業の雇用税総額は、2018年には5,300万ユーロだったが、2019年には47%増の7,800万ユーロにまで急増した。2020年には年間24%増の9,700万ユーロとなった。

なお、合計は増加したものの、やはりコロナの影響が見られ、第2四半期は前四半期比で-15%、第4四半期は-3%と顕著な落ち込みが見られた。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

スタートアップの中でも、雇用税を最も多く払っている分野は

FinTech:2億8,600万ユーロ ビジネスソフトウェア&HR:1億8,500万ユーロ 輸送&ロジスティクス:1,700万ユーロ

である。

具体的にはTransferwise(1,400万ユーロ)、Bolt(1,120万ユーロ)、Pipedrive(720万ユーロ)、Veriff(400万ユーロ)、Paxful(380万ユーロ)が最大の納税者となっている。なおここではイグジットした企業の存在を考慮して第1~第3四半期に支払われた税金のみを集計している。

エストニア統計局によると、2020年のスタートアップ企業の平均月給は2,398ユーロで、エストニア平均の1.8倍となっている。

外国人が率いるスタートアップ企業の平均月総給与はさらに高く、2,518ユーロだった。そして、管理職やトッププロとして働いている人々は、同国平均の2.2倍以上である2,873ユーロを受け取っている。

エストニアにおいて、スタートアップ企業はその他の企業と比較して約2.3倍多くの雇用を創出していることがわかっている。スタートアップ企業の平均従業員数が7名であるのに対し、その他の企業の平均従業員数は3名となっている。

雇用創出数の多さに加えて、スタートアップ企業は社員1人当たりの雇用税を従来の企業の2倍支払っており、スタートアップ企業が高給の雇用を創出する役割を担っていることが明確になっていると言えるだろう。

Startup Estoniaの責任者であるイブ・ピーターソン氏は次のように述べている。 「スタートアップ企業の年間従業員数の増加率はわずか4%でしたが、雇用税の納税額は24%増という驚異的な伸びを記録しました。この部門の回復力と適応力は、特に経済的に困難な状況にあるときに、わが国の成功にとってますます価値があることを証明しています。」

売上、投資、そしてイグジット

2020年、エストニアではスタートアップ企業が7億8,200万ユーロもの売上を生み出し、前年比43%増となった。

スタートアップ企業の中で最も売上高が多かったのはBoltで、3億2,200万ユーロと、スタートアップ企業の売上高全体の約41%をも占めている。次いで、Pipedrive社(4,710万ユーロ)、Adcash社(2,750万ユーロ)、Paxful社(1,550万ユーロ)、Viseven社(1,530万ユーロ)と続く。

Boltの創業者兼CEOであるMarkus Villig氏は次のように述べている。

「当社のビジネスは、世界的な危機によって大きな打撃を受けました。最も激しいロックダウンの際には利用率が85%も低下しました。しかし製品計画を迅速に変更し、チーム間で人材をシフトすることで、食品や食料品の配送事業を加速させ、パンデミックの間も人々が家に留まることができるようにしました。

2020年にはフードデリバリーサービスを4カ国から16カ国に拡大し、Bolt Foodでは数日のうちに食料品の配送を開始しました。またコロナ禍において人々がよりプライベートな移動手段としてスクーターを好むのを見て、私たちは多くの都市でスクーター事業を加速させ、昨年はヨーロッパの45都市にスクーターサービスを拡大しました。

当社は世界40カ国で5,000万人以上のお客様にご利用いただいていますが、本社はエストニアにあります。2021年も急成長を続け、新しい市場開拓とエキサイティングな製品展開していく予定です。その成長を支えるために、今年はエストニア国内で数百人を採用する予定です。」

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

『クラウドソース・データベース』と『エストニア・スタートアップ・データベース』によると、2020年の間に同国のスタートアップには合計で4億4,090万ユーロが投資されたとしている。

新たな投資案件は76件で、そのうち32件が100万ユーロ以上の評価額を記録している。ちなみに2019年には73件の新規投資案件があり、そのうち30件が100万ユーロ以上の評価額であった。なお同年の調達総額は22億6,400万ユーロであった。

2020年の最大の投資は2億5,000万ユーロを調達したBoltの事例だ。次いでMoneseの5億5,400万ユーロ、Skeleton Technologiesの4億1,300万ユーロ、Veriffの1,400万ユーロ、RangeForceの1億3,600万ユーロとなっている。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

また2020年には、同国のエコシステムの歴史においても特に記録的な数のイグジットがあった。特にPipedriveはユニコーンの地位を獲得し、最も輝いていたと言えるだろう。『The State of European Tech 2020』によると、Pipedriveは、昨年ヨーロッパで新たに誕生した10億ドル以上のハイテク企業18社のうちの1社である。

同年、ヨーロッパのエコシステムでは、合計7件の買収が行われた。1月には銀行サービスプロバイダーのPocosysOperaに買収され、6月にはグローバルな課金プラットフォームであるFortumoBokuに買収された。

Data-to-Everything Platformを提供するSplunkは、10月にエストニアのアプリケーション・パフォーマンス・モニタリング企業であるPlumbrを買収した。 RidangoはBaltCap Private Equity Fund IIIに買収され、セールスCRMツールのPipedriveはエンタープライズソフトウェアに特化したプライベートエクイティ企業であるVista Equityから過半数の投資を受け、iGamingオペレーターのCoolbetはインターネットゲームSaaSのリーディングプロバイダーであるGAN Limitedに買収され、言語プラットフォームのDropsはグローバルな学習プラットフォームであるKahootに買収された。

Pipedriveの共同設立者であり、長年CEOを務めてきたTimo Reinは次のように述べている。 「会社設立から10年目を迎えようとしていた私たちは、長期的な投資を行い、ビジョンを一致させ、次の10年の成長に必要な能力をもたらすような新しい構造を探していました。その点Vista Equityの実績は、私たちが求めていたものと一致していました。そして業界に関する深い専門知識と経営資源の効率化を考慮して、長期的なパートナーシップがスタートしました。結果、Pipedriveと従業員にとって、明らかに良い影響があったと言えます。

私たちは自分たちの道を歩み続け、ビジョンをより早く顕在化させます。Pipedriveは特別なセールス手法によって収益目標を達成し、カスタマージャーニー全体をエンドツーエンドで管理できるようになります。

そして初期の従業員の多くが、新しいスタートアップ企業に投資し、地元の起業家コミュニティを拡大・強化しています。この出来事を見て、私たちはとても興奮しています。」とも述べた。

(引用元:Startup Estonia, 無断転載厳禁)

スタートアップ企業はあらゆるハードルに正面から取り組んできた。多くの人が過去最も困難な年と考えている中で、スタートアップ企業の多くが成功したことを考えれば、ある程度は楽観的になれるかもしれない。少なくとも、スタートアップ企業はこれからも存在し続けるだろう。

スタートアップ企業の納税額は、2016年の2,800万ユーロから2020年には9,700万ユーロと約4倍になっており、今でも好景気にある産業として注目されている。

私たちStartup Estoniaは、これからも新規参入者を支援していく。そのことを私たちはとても楽しみにしており、一緒に歩み続けてくれる支援者に感謝の言葉を述べたい。

出典:Startup Estonia, Statistics Estonia, Estonian Tax and Customs Board, Estonian Startup Database, Funding of Estonian Tech Startups #estonianmafia

データ作成:Moonika Mällo (Startup Estonia)

記事執筆:Moonika Mällo(Startup Estonia Moonika Mällo, Sander Sillavee (Startup Estonia) & Markus Paapsi

グラフ作成:Moonika Mällo Kristjan Prik (MadeBY)

翻訳元:https://startupestonia.ee/blog/chapter-2020-of-the-estonian-startup-sector-the-craziest-one-yet

本文内の画像は全て原文からの引用であり、許可を得て掲載しています。無断転載と利用を禁じます。

記事パートナー
エストニアの政府系スタートアップエコシステム
執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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