【バイオマテリアル】衣服のライフサイクルを通じた持続可能性

バイオマテリアルは様々な分野の持続可能性に影響を与える注目すべき分野である。本稿では、業界の専門家や企業の創始者の対談に見る、バイオマテリアルのライフサイクルとそのあり方について紹介する。
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バイオマテリアルは、様々な分野の持続可能性に影響を与える注目すべき分野である。

身近な科学的手法と環境危機の融合により、衣服の製造から終わりまで、ライフサイクルの全てにおいて、エコフレンドリーなデザインを行うための革新的なソリューションが求められている。

SOSVのIndieBioアクセラレーターは、業界の専門家と企業の創始者を集め、バイオマテリアルのライフサイクルについて対談を行った。その対談の概要は以下の記事の通りである。また対談の様子は以下の動画から見ることもできる。

IndieBioが開催する対談動画はこちらから

より良いバイオマテリアルを作るためには、その定義が重要である。バイオマテリアルのような複雑な問題を議論する場合においては、「より良い」という言葉について、単純な定義を行うことは非常に困難である。

バイオマテリアルに特化したコンサルタントグループBiofabricateのデザイン・インテリジェンス部門の責任者であるAmy Congdon氏は「より良いものとは、汚染しているかどうかの要素で定義できるものではない」と語った。それに続き、「より良いものとは、使用するエネルギーや素材の寿命、リサイクルと循環利用性、生分解できるかどうか、生分解の条件など、素材のライフサイクルすべての面が関わり、非常に複雑なものである」と述べている。また、BiofabricateはFashion For Goodというグループと共同でバイオマテリアルに関するレポートを発表している。

たとえ天然素材であっても環境面のコストが小さいわけではない。例えば、ウールやシルクのような素材は自然に作られ、生分解性があるために、一見すると環境に優しいイメージがあるが、工業的にスケールアップし生産を行う際には多量の資材を必要とし、多くの廃棄物を生み出すものとなる。

絹の生産においては、収穫後の絹から特定のたんぱく質を取り除く後処理で、エネルギーを必要とする。

バイオマテリアル企業SpintexのCEO兼共同設立者であるAlex Greenhalgh氏はバイオデザインと分子生物学の経験を活かしこう問いかけた。「もし、除去時にエネルギーが必要となるたんぱく質を取り除くことができたらどうだろうか?」

「私たちは繊維を生産する際に、たくさんのヒントを自然から得ている」とGreenhalgh氏は述べている。「たんぱく質をベースとした繊維を作る際、おそらくもっともエネルギー効率の良い方法を用いている"クモ"からインスピレーションを得た」クモ糸のたんぱく質を模してSpintexによって開発されたたんぱく質は、より少ない処理でシルクの特量を維持した繊維を形成するものだ。

Algiknitもまた、自然からインスピレーションを得たバイオマテリアル企業である。

同社の製造する繊維は、地球上で最も早く成長する生物のひとつである昆布をベースとしている。デザイナーと科学者で構成される共同設立チームの一人であるAaron Nesser氏は「どんな場所に行っても問題ない素材を作りたかった」と語っている。

また、Algiknitの共同設立者たちが生分解性繊維の開発を行った理由には、衣服に使用されているプラスチック製繊維が現在話題となっているマイクロプラスチック問題を解決するといった要因も含まれている。

寿命を見据えたバイオマテリアルの設計

現在、デザイナーや科学者たちは新しい製品の開発を行っているが、バイオマテリアルとそれを構成している分子が生分解性を持っていることを裏付ける多くのデータが存在する。

Nesser氏は「私たちは新しいモノを作っているが、その一方でその素材や分子は、はるか昔より存在していた」と述べている。また、「海の中や土の中、堆肥の中には嫌気性の微生物が存在し、素材や化学物質を分解できることがわかっている」とも付け加えた。素材や化学物質を分解できる嫌気性の微生物の存在は既存の科学文献により裏付けられている。

また、Spintexのたんぱく質のように、新たな素材を用いてバイオマテリアルを製造する場合は、それが用いられる衣服の寿命も考慮する必要がある。Greenhalgh氏はSpintexが絹と似て、適切な環境下で分解される素材を開発することを期待している。Spintexのバイオマテリアルの寿命は、その素材の開発経緯と同様に、自然からインスピレーションを得たものとなるかもしれない。

「クモは自分の巣を再利用することが多い。巣を食べ、たんぱく質を代謝し、新しい巣を作る。そのために、繊維を分解する酵素が存在することがわかっている」とGreenhalgh氏は言う。

クモにヒントを得たSpintexは、製造した繊維を原料に近い液体に戻し、新たな繊維に変える方法を模索している。これにより、素材のリサイクルが促進され、循環型のライフサイクルが実現する。

ひとつの衣類に複数の素材

多くのデザイナーや科学者、起業家がより持続可能な素材を生み出すことの重要性は、あなたのクローゼットの中に、様々な服がある様を見てもわかるだろう。衣類には様々な種類の素材が使われており、それぞれが異なる目的や機能を持っている。Greenhalgh氏は「サステナビリティの問題を解決するためには、様々な素材が必要となる」と述べている。

「私たちは新素材に対し、既存の素材と同じ性能を持ち、より持続可能で、同じあるいはそれより安い価格で、市場の素材よりも優れている等、多くのことを求めている。第一世代の素材で妥協できる領域はどこなのか?」とCongdon氏は問いかけた。

Nesser氏は、ファッションという分野が第一世代のバイオマテリアルにとって最適なターゲットである理由をこう述べている。「私たちが普段身に着けている素材の特性、例えばナイロンやポリエステルの強度などを考えると、衣服として必要とされる性能をはるかに超えている」

つまり、既存の合成素材の性能と競うのではなく、素材の機能に合わせた性能及びデザインが衣類には必要となる。機能と寿命のマッチングは、バイオマテリアルの未来に革命をもたらす企業にとっての課題である。

バイオマテリアルのライフサイクル設計についての詳細は、記事冒頭で触れた対談でみることができる。

この記事に登場したスタートアップ企業はこちら

消費者製品の持続可能な材料の未来を成長させるためのデザインと生物学のコラボレーションを育むプラットフォーム

https://sunryse.co/app/startups/r_ackwutphlqqixop

昆布からできた糸を開発して循環型経済の実現と環境問題の改善に挑むスタートアップ

https://sunryse.co/app/startups/r_crwaxckiychcwhl

クモからインスピレーションを得て、ファッションをはじめとする次世代のサステイナブルな繊維を紡ぐオックスフォード大学スピンアウトスタートアップ

https://sunryse.co/app/startups/r_ikpxroxgjxthafc

翻訳元:https://medium.com/sosv-accelerator-vc/biomaterials-sustainability-through-a-garments-life-cycle-af9ed27c5d59

表題画像:Photo by Paul Teysen on Unsplash (改変して使用)

執筆者
岩切優 / Yu Iwakiri
Media Writer
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