フードデリバリー業界が世界中で急速に拡大している。これは新型コロナウイルス感染拡大に伴い食品・飲料業界が対面営業の割合を減らさざるを得ない状況であったことに起因している。
アジアは世界のオンライン・フードデリバリー市場の55%を占めており、さらなる成長の可能性を秘めている。2020年のアジアのオンラインフードデリバリーの普及率は約11.5%で、2024年には15%を超えると予想されている。単純計算で2億人以上の新規利用者が見込まれることになる。
しかし、同地域のすべてのプレイヤーがこの成長市場に参入できている訳ではない。成功しているのはほんの一握りで、シェアを巡ってしのぎを削っている企業もあれば、完全に撤退している企業もある。
アジア市場は複雑で多様性に富んでいる。また、この多様性がフードデリバリー業界の持続的な成長のための最大の課題となっている。非常に細分化された地域と未発達なエコシステムが混在することで、市場の複雑さが増し、グローバルブランドがこの地域で成功することが難しくなっているのだ。
これまでの取材・調査で見えてきたフードデリバリー業界における成功の鍵は「グローカル化」と「スマートイノベーションによる価値創造」である。本記事ではこの2点について解説する。
アジアの多様性を理解するには、グローバル経験に基づく全体感に加え、現地のニュアンスに密接に対応した「グローカル化」戦略を採用する必要がある。フードデリバリー業界をリードする企業の成功要因は、市場のニーズに応えるために地域に密着したアプローチを採用することにある。
アジアの主要都市では、それぞれの市場に独自の特徴がある。そのため、地域社会のニーズを十分に理解する必要がある。 例えば、シンガポールや香港などの成熟した市場ではキャッシュレス決済の普及が進んでいるが、未成熟な市場ではまだ現金が主流となっている。
一方で、東南アジアの若い経済圏から生まれた主要プレイヤーは、ハイパーローカルなアプローチに強いものの、その成功体験をアジア・太平洋全域で一様に再現するのには苦労している。
foodpanda CEO・Jacob Angele氏は以下のように述べている。
「我々がが事業拡大の初期に気付いたのは、首都だけでなく、郊外や小規模な地方も含めて、誰もがフードデリバリーを利用できるようにすることの重要性である。」
「例えばタイでは、バンコクでの競争には参入したものの、国全体での存在感を高め、より小さな地方への拡大を図ることが、私たちが取った重要な戦略であった。現在では、タイ国内のほぼ70の州で事業を展開している。」と加えた。
新型コロナウイルスの危機は、飲食業界に大きな影響を与えた。短期間のうちに、アジア全域の企業が一時的に外食を中止せざるを得なくなった。飲食店は従来のビジネスの枠を超えて、フードデリバリーを必要不可欠なサービスとして捉えざるを得なくなった。
フードデリバリープラットフォーマーは、多種多様な食べ物を安価かつ迅速に提供することが求められている。
ストリートフードからデザート、バブルティーまで、消費者はスピード、多様性、利便性を必要としている。商店やレストランのパートナーにとって、フードデリバリー・プラットフォームは、彼らのビジネスをデジタル化しながら、新世代の消費者を取り込むのに役立っている。
コロナ時代におけるフードデリバリー・プラットフォームの新たな使命は、従来の食品・飲料ビジネスのデジタル化を支援し、新しい生活様式を創出していくことである。
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新型コロナウイルスは、食料品の配達だけでなくその他の生活必需品を手に入れることの需要にも火をつけた。これは、少量の生活必需品を、オンデマンドで超高速に配送するクイックコマース(Qコマース)の誕生を意味している。
ドイツのフードデリバリー大手であるDelivery Heroは、クイックコマースの経済規模が 2030 年までに世界全体で 4,480 億ユーロに達すると予測している。また、Mastercardの調査によると、2020年3月から4月の間に、アジア・太平洋全域で消費者の宅配サービスへの依存度が40%上昇したことが明らかになっており、この傾向は今後も続くと考えられている。
アジアのフードデリバリー業界における競争環境は今後も激化していくだろう。この競争激化の流れが、多くの事業者に対してデジタルトランスフォーメーションの必要性にも目を向けさせるだろう。
翻訳元:Asia’s food delivery potential is set to unlock post-COVID-19. Here's why