2021年1月1日にアフリカ大陸自由貿易(AfCFTA)協定が正式にスタートし、アフリカは新たな経済時代を迎え始めた。この協定は2019年5月には発効していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、正式な運用開始時間が当初の2020年7月1日から2021年1月1日に延期されていた。
専門家や主要な組織のなかにはこの協定を称賛する者が多い。政策立案者にとっては厳しい課題もあるが、アフリカのスタートアップやイノベーターにとっては大きなチャンスだと言えるだろう。
アフリカ大陸自由貿易(AfCFTA)協定は、アフリカ連合の55の加盟国が参加する協定を示す。商品やサービスの自由な流通を求め、単一の大陸全体の市場を作り、資本移動を促進する目的で新設された。
アフリカ連合(AU)は2018年3月21日、AfCFTA協定を採択した。エリトリア以外のすべての加盟国が正式に署名・批准しており、世界最大の規模の自由貿易地域となる。
AfCFTA以外にも、アフリカにはさまざまな条約や協定が存在する。東アフリカ共同体(EAC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、東アフリカ・南部アフリカ共通市場(COMESA)などがその代表例だ。
デジタル経済と政策の専門家であるTiti Akinsanmi氏は、今回の自由貿易協定は、アフリカ諸国間の既存の条約や協定の延長線上にあると説明する。「1910年の南部アフリカ関税同盟(SACU)協定からキガリ宣言のような最近の事例も含めて、AfCFTAは一連のアジェンダ2063の延長線上にある」(Titi Akinsanmi氏)
Akinsanmi氏によると、新しい自由貿易地域の存在は、これまでの協定の関連性を否定するものではなく、現状の改題を改善し新たな機会を生み出すものだという。
AfCFTA はアフリカ域内の域内貿易や、アフリカ製の商品やサービスの生産の流通など、経済を様々な側面から促進しようとしている。
アフリカ輸出入銀行(Afreximbank)は2019年に、アフリカ全体の輸出量のうち14.4%のみがアフリカ諸国に向けられていると発表した。同大陸は依然として、非アフリカ諸国への一次産品の主要な供給国となっており、加工品や製造品の輸入国でもある。
世界銀行によると、AfCFTA は国内総生産(GDP)の合計が3.4兆米ドルに達する55カ国の13億人の人々を結びつけるとしている。また、3,000万人の人々を極度の貧困から救い、1日5.50ドル以下で生活している6,800万人の所得水準を向上させるという試算もある。
今回の協定から誕生した新たな合意には、以下のような計画も含まれている。
・アフリカ全域で、製品やサービスを免税で取引する
・アフリカに出入りする物品やサービスのために、関税の譲歩を新設する
・貿易を促進するために、地域全体での支払いも促進させる
PwC西アフリカのチーフエコノミストであるAndrew Nevin氏は、貿易協定の影響は一朝一夕には感じられないと主張している。今のところ、協定の影響については慎重に楽観視していたほうが良いと言えるだろう。
「アフリカには、国々を結ぶ物理的なインフラとソフトなインフラの問題がある。現在は船での輸送の方がはるかに簡単である。しかし、効果的な貿易システムのためには、アフリカ全体でより良い道路と効果的な鉄道システムが必要となるだろう」(Andrew Nevin氏)
鉄道は大量の物資を長距離間で移動させるには効率的な手段である。しかしアフリカ開発銀行(AfDB)によると、アフリカ諸国のほとんどの国で、鉄道輸送が占める市場シェアは総輸送量の20%以下にとどまっている。この他にもインターネット接続や国境を越えた支払いシステムのほか、デジタルアイデンティティーなど、アフリカには依然として様々な課題が発生している。
インフラの課題以外にも、Andrew Nevin氏は各国の政策をまとめる必要性を主張している。
「例えば、ナイジェリア標準化機構(SON)の基準を満たす製品やサービスを生産する場合、経済取引を容易にするためには、協定に加盟していない他国にも受け入れられる標準を作る必要があるだろう」(Andrew Nevin氏)
西アフリカの場合は、フランス語圏と英語圏という言語の壁によって、それぞれの関係に影響がでる恐れもある。さらにアフリカ諸国の中には、歴史的に領土問題を抱えている国もあることに留意したい。
AfCFTA協定が正式にスタートしたことで、アフリカにおける外国直接投資、ひいてはスタートアップの資金調達が増加することが期待されている。
Akinsanmi氏は、今回の新しい協定の恩恵をより多くの企業やスタートアップが受けるためには、テクノロジーの活用が必要であると指摘している。AfCFTA協定は、フィンテック企業や技術を駆使した物流・流通プラットフォーム企業、そしてエンターテインメント業界にチャンスを切り開くだろう。
「今求められているのは、既存の金融インフラを改善し、アフリカのある国から別の国への送金をより容易にすることである。おそらく次のステージでは、PaystackやFlutterwaveのようなスタートアップが、アフリカの決済インフラに大きな影響を与えるだろう」(Titi Akinsanmi氏)
アフリカ諸国が AfCFTA 協定の恩恵を享受するまでには、もう少し時間がかかるかもしれない。
「協定は重要だが、あくまでもアジェンダ2063に向けた長期的なビジョンと捉えよう。アフリカ諸国の政府が今すべきことは、良好なガバナンス、道路や鉄道、決済システムの改善といった、基本的なポイントに焦点を当てることだ。貿易協定がどう転んでも、これらのインフラが必要になる。」(Andrew Nevin氏)
これまで様々な記事で指摘してきたように、アフリカ政府が導入した政策の多くは、政策を実施するうえで必要なインフラが不足している。その上、ソフトインフラの問題も顕在化しており、ほとんどの国が中央のデータベースを構築していないことは、いまだに顕著な問題だと言えるだろう。
不足しているのは、個々のデータを統一し、一貫性を持たせることである。AfCFTA協定は2021年1月にスタートしたが、インフラが整備されなければ、アフリカ諸国はその恩恵を享受するにはまだ長い時間がかかる。そこで、スタートアップが果たせる役割は大きいだろう。
翻訳元:https://techpoint.africa/2021/01/01/afcfta-startups-policymakers/