「Nota AI」は、顔認証による入退室管理、自動車の低電力運転監視システム、車両に搭載するインテリジェント交通システム、など、多様なエッジAI*ソリューションを展開している韓国発のテックスタートアップである。同社はSUNRYSEのメディアパートナーである、韓国のスタートアップ情報を英語で配信しているメディア「SeoulZ」にて、2022年に注目したい韓国スタートアップトップ20社にも選ばれている。また、同社は日本企業とPoCを進めており、その背景や日本企業との協業ついてお話を伺った。さらに、今回インタビューさせていただいた同社欧州拠点ゼネラルマネージャーを務めているSeri An氏は、元々大企業に長年従事していた経験を持つ。なぜ大企業からスタートアップに転職したのか、その背景と「Nota AI」の今後の展開ついてもお話を伺った。
*エッジAI:スマホ、センサー、車などの「エッジデバイス」自体にAIを搭載し、学習・推論させる技術。
元々はドイツの自動車メーカーである「Daimler(現:メルセデス・ベンツグループ)」のイノベーション・ハブという部署で働いていました。イノベーション・ハブでは、サービスやソリューションのデジタル化、特に技術革新に重点を置き、どのようにお客様に革新的なソリューションを提供できるかについて考えていました。その部署の中で私は、商用車を扱うトラック部門を担当し、トラックドライバーやトラックオーナーに向けた複数のデジタルソリューション開発に携わっていました。
写真:今回インタビューに応じてくださった、「Nota AI」ジェネラルマネージャー、Seri An氏(SUNRYSE)
「Daimler」のイノベーション・ハブで働いているときに、「Diamler」の代表として、何社かのスタートアップに会う機会がありました。ミーティングに参加していたスタートアップの創業者たちは、自分たちのソリューションをプレゼンしていたのですが、その中で「Nota AI」は傑出した存在で、CEOは本当に目を引く存在でした。
「Nota AI」とはそこで初めて出会ったのですが、それから数年後、別の機会に弊社CEOに再会しました。その時「Nota AI」は着実にステップを踏んでいて、私はとても感動したのです。
そこで私はCEOに質問してみました。「私のような、異なる環境で経験を積んだ者が必要ではないですか?」と。私は「Nota AI」のチームや、会社が持っている機敏さ、ダイナミズムが素晴らしいと感じていました。話し合った結果、間違いなくウィン・ウィンになると確信しました。私はそれまで、革新や変化をもたらすのに時間がかかる、複雑な会社で働いてきました。大企業の仕事のプロセスや、自動車メーカーの専門家たちと仕事をしてきた経験が「Nota AI」で活かせると思ったのです。また、私自身も「Nota AI」で新しいことにたくさん挑戦できると思い、お互いに合意しました。
弊社は、AIモデルの最適化とエッジAI技術の事業化にフォーカスしたテックスタートアップです。主力製品は、データセットのみを用いてAIモデルの開発プロセスを自動化し、ハードウェアを考慮したAIモデルの最適化を目指す独自のAutoML(Automated Machine Learning )プラットフォーム「NetsPresso」です。また、オンデバイスのインテリジェント交通システム、顔認証による入退室管理、自動車の低電力運転監視システムなど、多様なエッジAIソリューションを展開しています。
写真:「Nota AI」のソリューション(同社HPより引用)
私は、「Nota AI GmbH(欧州子会社)」のジェネラルマネージャーとして、ヨーロッパでのビジネスとオペレーション、市場参入とビジネス拡大の責任者を担っています。韓国に本社があるスタートアップで、私たちのソリューションが世界市場に通用すると信じているため、ヨーロッパ支部のベルリンとアメリカ、サンノゼに支社があります。
写真:「Nota AI」
私たちがドイツにいる理由は2つあります。1つ目は、ドイツは製造とエンジニアリングに強みがあり、私たちのコアビジネスであるAIの最適化は非常にニーズがあると考えているためです。そのため、私たちはここで潜在的なパートナーを探し出し、そのパートナーとともに、未来を切り拓くビジネスを展開していきたいと考えています。2つ目はドイツは地理的にヨーロッパの中心にあり、他の国へのアクセスも容易であるためです。ドイツはヨーロッパ経済の中心であることも大きいですね。
ベルリンにいる理由は、また別の理由があります。スタートアップのエコシステムを考えてベルリンを選択しており、地方自治体やエコシステムビルダーからのサポートも充実しています。私は去年、出張でヨーロッパの他の年も訪問したのですが、ベルリンが最もスタートアップをサポートしてくれる都市の一つだと感じました。また、優秀な人材がアクセスしやすいことも魅力です。
大企業は、スタートアップのスピード感やクリエイティビティといった強みを認識しています。一方で大企業側はブランド力を持っていて、すでに市場と顧客を持っています。しかし、大企業ではトレンドを社内に取り入れることに時間がかかります。だからこそ、スタートアップとコラボレーションし、彼らと一緒に仕事をする必要があるのです。
具体的なパートナーの名前はまだ言えませんが、「Nota AI」が提供する特定のソリューションを必要としている日本企業と知り合いました。この会社は、AIソフトウェアインテグレーターで、すでに日本企業を顧客に抱えており、日本の大手VCからも出資を受けています。彼らは顧客にソリューションを提供する際に、我々の技術を必要としていました。そのため、お互いに何が必要か、私たちは何ができるのか、どうすれば彼らの助けになれるのか、私たちの技術が本当に彼らのソリューションをより良くするのに役立つのかを確かめるため、徹底的に話し合いをしました。最終的に、私たちのAIによる顔認証モデルでPoCを行いました。また、その他にもコラボレーションの可能性を検討しています。
私たちは今後も日本企業との対話を続けていきたいと思っているので、私たちの技術に興味のある日本企業がいたらぜひ一緒にコラボレーションしたいです。
写真:同社YouTube
大企業とスタートアップの強みをそれぞれしっかりと理解し、大企業でのプロセスを知っている自身の強みを活かしてスタートアップで挑戦するSeri氏の姿は非常に印象的であった。また、本インタビューを通じて、SUNRYSEもコラボレーション・ジェネレーターとして、改めて欧州や海外で挑戦するスタートアップや海外スタートアップとの協業を模索している企業との架け橋になれるよう努めていきたい。