女性として起業家になる 経験から得た自信と勇気 Velbi共同創業者・CEO Piia氏 インタビュー

自身も燃え尽き症候群を経験。燃え尽き症候群を根絶するためのアプリを開発・提供する「Velbi」のCEO Piia Kuosmanen氏へのインタビュー。
ヘルスケア フィンランド

バーンアウトシンドローム - 日本語では燃え尽き症候群と翻訳されるが、これは1974年代にドイツの精神心理学者ハーバート・フロイデンバーガーによって初めて提唱、定義された。

仕事が原因で燃え尽き症候群を患うケースは世界的に多い。こういった症状の多くは目に見えにくかったり、人に相談しにくい問題であったりするため、未然に防ぐことが難しいのが現状だ。

Piia Kuosmanen氏は、彼女自身が燃え尽き症候群を患った経験から、それを未然に防ぐためのオンラインツール「Velbi」の立ち上げに至った。共同創業者兼CEOの彼女に、起業の経緯と未だ女性起業家への投資率が低い北欧で女性起業家として生きることについて話を伺った。彼女自身の経験を勇気に変えて挑戦する姿勢と、その経験から得た人生のアドバイスをお伝えする。

「Velbi」設立の経緯を教えてください。

自身が燃え尽きたことで思い出した、起業への熱意

私は過去に燃え尽き症候群を経験し、立ち直るまでに長い年月をかけました。発症した原因や解決策を自身で探っている過程で、職場はストレスが多い場所であることを認識したのです。それと同時にメンタルヘルスという世界規模の課題に対し、解決に至っていない現状にもどかしさを覚えました。私はもともと起業も考えていたこと、常に何かをしたいという気持ちもあることを思い出しながら、「職場における燃え尽き症候群を無くす」というミッションを見出しました。そのタイミングで良い仲間にも出会い、創業に至りました。

画像:同社HPより引用

女性として起業をすること

数々の経験からの気づき「女性である私でも起業できる」

私はこれまでに、中国で開催されたSlushの運営や、アフリカで子供たちにコーディングを教える活動などに関わってきましたこれらの経験を通じて、女性であっても起業家になれることに気がつきました。

ヨーロッパの起業家は大半が中・若年層の白人男性

私の知る範囲では、たまたま運よく起業家になれた女性は1人もいません。みんな、「起業家になろう」としてなっています。

一方で「機会があったから」と、運よく偶然起業家になった男性はよく見かけます。男性が起業家になるということは、少なくともヨーロッパでは長い間当たり前になっているようです。

※男女平等のイメージが強い北欧だが、実際に女性起業家がはじめたスタートアップに対する投資は全体の1%にとどまっている(Unconventional Venturesによる調査より)。

起業を経て得た気づき

スタートアップを創業し、経営をするということは常に失敗したり、批判の意見にさらされたり、他人から拒否されたりの繰り返しです。

私は自分のことより相手のニーズに合わせるいわゆる「良い子」として育てられ、自分自身の気持ちや意見をなるべく聞かないようにしてきました。しかし起業と精神的な成長を経て、今では他人に左右されず、自信を持ち、自分のやりたいようにやることを心がけています。

大きくかつ扱いにくいトピック「燃え尽き症候群」

アイデアからビジネスへ

私は、共同創業者のStefan Caveとともに「Velibi」を立ち上げました。彼は、イギリスのヘルステック企業で働いていましたが、フィンランドの文化や生活を気に入り、パートナーと共にフィンランドに来ました。彼との出会いは、ヘルシンキの非営利団体で、外国人がヘルシンキで起業する際のサポート事業で関わったことがきっかけです。

私たちは職場におけるメンタルヘルスの課題とその解決について話を始め、アイデアをまとめていきました。2020年の終わり頃にはビジネスの話になり、最終的に2021年5月には仕事を辞め、起業するスケジュールを決めました。

まずはコンサルティング会社として創業

私たちは職場での燃え尽き症候群に関する科学的なリサーチを基にワークショップなどを試験的に行い、結果を見ていきました。2022年の春には、テック企業としてやっていけると判断しました。同時期にCTO兼Co-founderのRoope Nortiaを迎え入れ、同年の夏には既にLinkendinで繋がっていた「Vault」や「Brella」などの約12の企業に我々のデモ商品を送り、フィードバックをもらいました。2022年11月上旬現在、「Velibi」を市場に出す準備は整っている状態で、2022年11月下旬には初めての顧客を獲得できそうです。

仕事をきっかけに燃え尽き症候群になってしまう課題を解決するための唯一の方法は、常に顧客と近い距離であることです。そうすることで問題の早期発見・解決につながります。

画像:SUNRYSE

今後のビジネススケジュール

同社の商品を市場に適合すること、消費者の獲得…そして最終的には世界の市場を制覇することでしょうか(笑)。2023年から2025年にかけてヨーロッパのほとんどの市場への展開ができるようになり、2024年の上半期は年間100万ドル程度の経常収益が見込める予定です。5年以内にアメリカ市場に進出することを目標に掲げています。ですが、私たちは事業拡大ではなく、社員や収益性に重きを置いていきたいと考えています。

世界的な職場における燃え尽き症候群の現状を見て、今後のスタートアップ業界や将来への期待や可能性を教えてください。

最大の目標

私たちは最終的に職場での燃え尽き症候群のケースがなくなり、自殺者の数を世界的に減らすことを目標としています。

パンデミック以降に人々が考える「仕事の役割」

2020年のパンデミックはメンタルヘルスに対する人々の意識を大きく加速させ、人々は自分の人生における仕事の役割を改めて考え始めるようになりました。また、企業の経営者自身も、会社の従業員の業績を正当に評価できているのだろうか、と考え始めるようになってきています。

メンタルヘルス関連ソリューションへの注目が高まっている

メンタルヘルスに関しては、遠隔サポートやピアサポートを提供するセラピーサービスも多く出てきています。ミレニアル世代やZ世代などの職場におけるメンタルヘルスを重要視する新しい世代のブームに乗ろうと考えている人たちが、メンタルヘルス関連のソリューションに資金を投入するようになっていますね。

最後に、女性起業家へのアドバイスを教えてください。

私たち女性は特に「自分は十分ではない」という内なる声を持っています。その間違った声を聞かないことが大切だと思います。何事にも挑戦して、前に進むだけで良いのです。それは決して簡単なことではないですが、挑戦してみてください。何かを始めて失敗し、再度立ち上がろうと決心し、やがて誰もあなたを打ちのめすことはできないと学んで勇気が生まれていくのです。

私が人生で受けた最大のアドバイスは「世界はあなたが自分で傷つけた以上に、あなたを傷つけることはない」というものです。自分に自信を持つための唯一の方法は自分自身を尊重し、大切にすることです。そして、自分の心に素直に従うことです。もし自分の心に素直に従わないでいると、自分が思っているほど勇敢になれていない、といつも焦りを感じてしまう。それは失敗を受け止めて自分自身を尊重しながら生きるよりずっと辛いことです。それよりも、素直に今の自分の心に従う方がよっぽどいいと思います。

でも人生はマラソンのように長い道のりです。私は燃え尽きてから立ち直るまでに3年もかけてしまいましたが、みなさんは3年もかける必要はありません。自分のために何ができるかを想像してください。10年間自分を酷使して、完全停止してしまうよりも、どうすれば自分を大切にできるか、自分の限界はどれくらいなのか、何を受け入れることができるかを自分で学んでいくことが大事です。

終わりに

インタビュー中に力強く話すPiia氏にインタビュアーである我々は終始圧倒されていた。

Slush2022で彼女から話を聞いた2022年11月というタイミングは、「Velbi」が2022年の春から走り続け、最初の顧客を獲得するクロージングの時期であり、Piia氏は起業家から経営者へと変化するタイミングでもあるように見えた。話を聞くうちに、彼女は2022年を通して男性起業家との違いを強く意識したようであったことから、私たちは多様性・包括性・平等性の角度から「女性」起業家としての意見を聞きたいと考え、その点に焦点を当てて質問を重ねた。

かつて「良い女の子」として育てられた彼女は今では「力強い女性」だ。自らの燃え尽き症候群を患った経験を糧に世界規模でメンタルヘルス問題を解決したいという彼女の意志は多くの起業家や投資家から共感を得て、「Velbi」は着々と実績を積んでいる。スタートアップ業界に限らず、世界的に女性起業家が少ない中、彼女のような人材は起業家になりたいと考えている女性の背中を後押しするであろう。 彼女、そして「Velbi」の今後の活躍に注目したい。


表題画像:Photo by SUNRYSE

執筆:鬼頭清香

編集:藤澤みのり、古川絵理

表題画像作成:鬼頭清香

執筆者
鬼頭 清香 / Sayaka Kito
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