Startup Genomeレポート2020で見る世界のスタートアップ・エコシステムの現状

アジア圏のスタートアップ企業が世界的な注目を集めつつある一方、新型コロナウイルスは世界中のスタートアップ・エコシステムに甚大な被害を与えている。Startup Genome社の調査結果を基に、2020年のスタートアップ・エコシステムの現状について解説する。
HR VC/CVC

Startup Genomeの調査によると、現在、世界トップレベルのスタートアップ・エコシステムの30%は東南アジアで形成されていることが分かった。

トップエコシステムリストにランクインした11の新しいエコシステムのうち、6つのエコシステムがこの東南アジア地域のものである。

2020年のランキングの特徴は、多くのR&D大国(研究開発と知財戦略の強みを活かして大きく成長している)の成長が垣間見られたことである。東京とソウルはその代表例であり、両エコシステムは研究開発活動の指標であるナレッジファクターで最大のスコアを獲得している。

関連記事:East Ventures East Ventures、コロナ危機に立ち向かうスタートアップ向けに8,800万ドルのシードファンドを組成し初のクローズを発表

東京(15 位)とソウル(20 位)はエコシステムのトップ 20 に入り、バンガロール(主に資金調達レベルの低さが原因で落ちた)とサンディエゴを抜いてランクインした。

東京とソウルに加え、上位30位以内に参入したのは、深圳(先端製造業のハブ、22位)、杭州(アリババの本拠地、28位)、サンパウロ(30位、2017年に順位を落とした後、トップリストに返り咲き)である。

高成長エコシステム部門では、ヌールスルタン(カザフスタンの首都)がフランクフルト、カイロ、マニラ、アイルランド中東部地域などを抑えて、2位にランクインしている。

さらに、#GSER2020の調査結果によると、ヌールスルタンは資金調達成長指数でトップを達成した。

その他特筆事項

  • 2013年には、ユニコーン企業や10億ドル規模のexitを生み出したエコシステムは4つだけだったのに対して、現在では、累計85のエコシステムがユニコーンや10億ドル規模の企業を輩出している。

  • 新型コロナウイルスの危機が世界中を襲う中、スタートアップ企業は、資金調達難および需要の低減の二重苦の窮地に立たされている。

  • 現在、世界の4割程度のスタートアップが危険領域(レッドゾーン)にいる。レッドゾーンとは、近いうちに追加資本を調達できず、かつ収益と費用構造に変化が見られなければ経営破綻に繋がることを意味し、世界的にスタートアップが大量絶滅する危険性があることを意味している。

  • 資金調達プロセスは劇的に変化している。コロナ以前に投資家からタームシートを受け取っていたスタートアップにおいても、4社中3社が資金調達プロセスに支障をきたしていることが分かっている。タームシートを持っていたスタートアップの18%が投資家都合によって資金調達ラウンドがキャンセルされ、54%の資金調達ラウンドに遅延が生じている。

  • VCの資金提供総額は減少しており、世界全体では、2020年の3ヶ月間で20%減少している。新型コロナウイルスの影響を最初に受けた中国では、世界の他地域と比較して50%以上もの資金が減少している。中国では3月以降に投資額が増加してきているものの、2019年12月以前と比べて低水準である。

  • スタートアップ全体の約72%が売上を落としており、平均減少額はおおよそ32%である。40%もの企業が40%以上の減収に陥っており、成長しているスタートアップの割合は約12%にとどまっている。

  • 60%以上のスタートアップ企業が従業員の解雇、給与の減額に踏み切っている。正社員を削減したスタートアップ企業では、約33%もの雇用が削減されている。2020年3月から5月の間にレイオフされた従業員数は5倍に増加している。

  • スタートアップの71%が経費を削減しており、削減額はおおよそ22%となっている。

  • 暗いニュースばかりではない。例えば、フォーチュン500社の半数以上が不況期に創業している。Startup Genomeの調査によると、Facebook、LinkedIn、Palantir、Dropboxなど、不況期だけでも50社以上のユニコーンが誕生している。このデータは、不況期においても資金提供を行う必要性を示している。

  • 2019年12月にパンデミックが発生して以来、世界のベンチャーキャピタルの資金は約20%減少しており、スタートアップのエコシステム全体に波及効果をもたらしている。

  • 政府は、技術系スタートアップに少なくとも半年分のキャッシュを注入するための施策を打つべきである。

関連記事: パンデミック前後で企業が取り組むべき管理項目

  • スタートアップの保護は雇用創出に繋がる。また、スタートアップがいなければ、大企業や中小企業のイノベーションも停滞する。

  • 世界のスタートアップ企業の43%が、国や地方自治体の救済措置による支援を受けていない、あるいは受けられるとは思っていない。

  • 政府は、2020年に倒産の危機に瀕しているスタートアップ企業の少なくとも80%を救うために、迅速に資金を投じるべきである。また、今後2年間で新規のシード投資やシリーズA投資の割合を増やすために資本を注入し、2008年の不況時のように投資が劇的に減少しないよう気をつけるべきである。


翻訳元:6 of the world's top 11 startup ecosystems are now in Asia Pacific: Startup Genome Report 2020

‍表題画像:Photo by Leon on Unsplash (改変して使用)

記事パートナー
アジア各国のスタートアップシーンを世界に発信するオンラインメディア
執筆者
松尾知明 / Tomoaki Matsuo
中小企業診断士 / Web Writer
海外スタートアップの最新トレンドを
ニュースレターでお届け!
* 必須の項目

関連記事