世界で5番目に大きく、ラテンアメリカ最大の国であるブラジルは、グローバル市場におけるビジネスリーダーとして重要な役割を果たしていた。過去10年間におけるブラジルのスタートアップの成長と発展の度合いは驚異的であり、2019年には少なくとも9社の新しいスタートアップ・ユニコーンが登場し、世界中から巨額のVC投資が集まっている。
2012年当時Forbesはブラジルを「世界で最も起業家精神に富んだ国の1つ」と評しており、その後も革新的なテクノロジーを駆使して世界のスタートアップ市場で際立った存在となっている。
ブラジルの人口は2億930万人、2019年のGDPは2.5兆米ドルで、世界第8位の経済規模を誇っている。また世界のGDPの3%を占めており、近年の不況にもかかわらず今後も資本を集め続けることが期待されている。
グローバル投資家がラテンアメリカ地域に注目している中で、ブラジルはラテンアメリカ最大のスタートアップエコシステムを構築しており、ラテンアメリカのVC投資全体の73%を受け、ここ数年大きな成長を遂げている。
LAVCAによると、2017年から2018年にかけて同国の投資案件数が87%、投資額が51%増加し、2017年は47件の取引で3億6200万ドル、2018年には88件の取引で5億4600万ドルに成長した。これはSoftBankが近年ブラジルに関心を寄せていることもあり、SoftBankからの案件と資本は大きなシェアを占め、2019年には10億ドル以上の投資を受けた可能性があるという。
ブラジルはラテンアメリカで最も高いレベルのモバイル飽和度を誇っており、約102%(人よりも携帯電話の方が多いことを意味する)、ブラジル人の66%がモバイルインターネットユーザーである。同国民のインターネット利用時間は1日平均9.5時間で、世界平均の1日7時間弱を大きく上回っている。さらに61%のブラジル人はソーシャルメディアのアカウントやオンラインバンキングへのアクセスに携帯電話を使用している。これは「Movile」「iFood」「Nubank」といった、モバイルファーストのスタートアップ企業が近年急速に成長している理由となっている。
ダイナミックなブラジルのスタートアップエコシステムは、ブラジルと世界の投資家からの投資を集めており、2017年と2018年上半期で合計14億ドルに達している。ブラジルの主要VCである「Redpoint eVentures」「Kaszek Ventures」「Valor Capital」「Monashees」の4社は、ブラジルとラテンアメリカの最大手スタートアップに米国式の資本とメンターシップを提供するトップファンドとしてこの地域で頭角を表し「Rappi」「Gympass」「Nubank」「Creditas」など、インパクトのあるブラジルのスタートアップ企業への投資に注力している。
またブラジルは、50億ドルのSoftBank Innovation Fundの大部分を受け取っており、「99」「Loggi」「QuintoAndar」「MadeiraMadeira」などのスタートアップ企業に投じられている。
ブラジル政府は、クリチバやサンパウロなどのスタートアップ企業の拠点を対象とした「20 Curitiba Innovation Pact」や「Vale do Pinhao fund」などの取り組みを通じて、スタートアップエコシステムの構築を後押ししている。「ABVCAP(Associação Brasileira de Private Equity & Venture Capital)」は政府が出資するプラットフォームで、起業家や企業を対象としたさまざまな年次イベントを通じてスタートアップエコシステムを支援している。
同様に「StartUp Farm」「ACE」「Techstars」などのアクセラレータープログラムもエコシステムの成長をさらに後押ししている。「StartUp Farm」はブラジル最大のスタートアップアクセラレータープログラムで、サンパウロに拠点を置き、設立以来250社以上のスタートアップ企業に1億ドル以上を投資している。「ACE」は2012年以降メンターシッププログラムを通じて130社以上のスタートアップ企業を育成し、毎年5億レアル(1億2300万ドル)以上をブラジルのスタートアップ企業に投資している。
旧99Taxisの交通アプリ「99」は2018年に中国のライドハイリングアプリ「Didi Chuxing」に10億ドルで買収され、その後ブラジル市場では「Uber」よりも存在感を強めてきている。同社は現在、ブラジルの1,000以上の都市で1,800万以上のユーザーを抱えており、ブラジルでトップのライドシェア・スタートアップとなっている。SoftBankと「Monashees」は買収前の「99」の投資家でもあった。
ブラジルのモバイル大手「Movile」が所有する「iFood」は、ブラジルの480以上の都市でフードデリバリーサービスを提供している。2019年11月には、1日の注文件数が39万件と116%の成長を遂げ、ブラジル最大のフードデリバリーアプリとなった。
同社は2018年にNaspersとInnova Capitalから記録的な5億ドルを獲得するなど、常に大規模な投資ラウンドを集めている。またこのスタートアップは2018年8月に「Pedidos Ya」のブラジル資産を買収し、白熱しているブラジルのフードデリバリー市場を支配し続けている。
「Nubank」はブラジルとメキシコで1,000万人以上の顧客を持つ、世界で最も人気と価値のあるネオバンクである。このスタートアップは2018年にブラジルで3番目のユニコーンとなり、2020年には100億ドル以上の価値がある。
Redpoint Ventures、DST Global、Ribbit Capital、QED Capitalが同社に投資している。中国の「Tencent」は2018年10月に「NuBank」の5%の株式を取得し、同社の価値は推定40億ドルに倍増した。このネオバンクは現在、メキシコやコロンビアなど、ラテンアメリカの複数の国でビジネスを展開しており、今後はアルゼンチンにも進出する予定となっている。
「Loggi」は、ブラジルの33都市で、10,000人以上のバイクと商用車のドライバーの車両管理と、毎月300万回以上の配送を行っている配送物流プラットフォームである。2019年6月にSoftBankが「Loggi」へ1億5,000万ドルの投資を主導し、初のラテンアメリカでの大規模な投資の1つとして、同社の価値を10億ドル以上に押し上げた。「Loggi」は「MercadoLibre」などのラテンアメリカの大企業の食品から小売商品まで、あらゆるものを配送している。
「Gympass」はClassPassのようなフィットネスプラットフォームで、ユーザーは1つのメンバーシップでプラットフォーム上の数千種類のジムやフィットネスのクラスにアクセスすることができる。このプラットフォームはラテンアメリカの14カ国で52,000以上のジムやスタジオのパートナーを結びつけている。
SoftBankは2019年6月、General Atlantic、Valor Capital Groupとともに、「Gympass」への3億ドルの投資ラウンドを主導した。「運動不足を解消する」というミッションの下、急速に世界に広がっている。
「QuintoAndar」は2019年9月に以前からの投資家であるGeneral AtlanticとKaszek Venturesによって、SoftBankが主導する2億5000万ドルのシリーズD投資を受けてユニコーン企業となった。2019年、この不動産プラットフォームは物件数で前年比5倍、収益で3倍の成長を遂げている。「QuintoAndar」はブラジル国内の25都市で毎月4,500件以上の契約を行ない、ブラジルの不動産市場全体で急速に拡大している。
「Grow Mobility」はラテンアメリカの2大電子スクーター・バイクシェアリング企業であり、メキシコの「Grin」とブラジルの「Yellow」が合併してできた会社である。このプラットフォームでは、10万台以上のスクーターと3万5,000台以上の自転車のシェアリングサービスをラテンアメリカ全土に提供している。同社は2019年7月に地域内の23都市で1,000万回以上の利用を記録し、ラテンアメリカの主要な交通プラットフォームとなった。「Grin」と「Yellow」の両社は2018年にそれぞれ記録的なラウンドを調達しており、「Grin」の2,000万ドルのシードラウンドは「Yellow」の6,300万ドルのシリーズAと同様に、当時のラテンアメリカでは史上最大のものであった。
「Creditas」は不動産や車両を担保にした有担保の顧客向けローンを提供するフィンテックである。同社は2019年上半期に80万件のローン申請を受けており、ブラジルでは低金利かつ長期の優良なクレジットに対する需要があることを示している。
SoftBankは2019年7月、ラテンアメリカにおけるイノベーションファンドの一環として、この融資プラットフォームに2億ドルを投資した。同社への過去の投資家には、Kaszek Ventures、Quona Capital、QED Investorsなどがいる。
ブラジルのトラック貨物物流サービスである「CargoX」は、現在世界第3位の車両管理サービスに相当するようになり、ユニコーン企業の地位に着実に近づいている。同社はゴールドマン・サックス、Qualcomm Ventures、Valor Capitalから複数の投資を受けており、2018年に年間売上高2億ドルに達し、トラック貨物市場が新規プレーヤーに大きく開かれているラテンアメリカ全域で事業を拡大し続けている。
「Neon」はブラジル第2位のネオバンクで、支払いカードや個人向けクレジットラインを通じた簡素化されたオンラインバンキングを顧客に提供している。最近ではBanco VotorantimとGeneral Atlanticが主導する9,500万ドルのシリーズBラウンドを実施した。現在「Neon」は、リオデジャネイロとサンパウロで事業を展開しており、ブラジル全土での事業拡大に伴い、160万人の顧客の増加を目指している。
「MadieraMadeira」は家具などの家庭用品のオンラインマーケットプレイスである。同社は2019年にSoftBankの注目を集め、1億1,000万ドルのシリーズD投資を受け、スタートアップへの過去の投資総額の3倍以上となった。Softbankによるラウンド以前から4,000万ドル以下の資金を調達し、徐々にブラジルの主要な家庭用品のオンラインマーケットプレイスになっている。同社はクリチバで事業を展開しているが、今回の資金調達を機にブラジル全土への拡大を目指している。
「Buser」は、同じ目的地に向かう顧客をつなぐことで、通勤者に安価なバス通勤を提供することを目的としたコラボレーション型の貸切バスプラットフォームを提供している。同社は従来のサービスに比べて最大60%も安い料金で、1日に3,000人以上の通勤をサポートしている一方で、他のバス運転手の反発を招いた。
2019年10月、SoftBankはグローボ・キャピタルとともに非公開のシリーズB資金調達ラウンドを主導し、「Buser」は2019年の最初の9カ月間で1500%の成長を遂げた。これまでの投資家には、MonasheesやValor Capital Groupなどがいる。
この2年間でブラジルのスタートアップ・エコシステムはブームとなった。米国や中国からのVC資本の注入により、2018年の年初からブラジルでは新たに12のユニコーンが誕生し、ブラジルは世界で最も価値のある市場の一つとなっている。
このようなブラジル市場への注目は止まる気配がなく、今後ブラジルがラテンアメリカを代表するスタートアップエコシステムとしてさらに強固なものになると予想される。
現在ブラジルのスタートアップ企業の大半は、ハイテクの中心地であるサンパウロに集中している。一方、クリチバなどのハブを開発するための投資や政府の取り組みが活発化しており、ブラジルのエコシステムは今後数年間で強化され、多様化していくだろう。ブラジルのスタートアップ市場は、間違いなく注目すべき市場である。
翻訳元:https://latamlist.com/12-brazilian-startups-to-watch-in-2020/
表題画像:Photo by Mateus Campos Felipe on Unsplash (改変して使用)