「技術系スタートアップとの仕事は、私にとって転機となりました。多くの不安を抱えていた元難民から、周囲の人々に貢献できるようになったのです。特に、地元の起業家の成長を支援するために祖国に戻ってからはそうでした」
本記事の著者はAnas Al-Chalabi氏だ。スタートアップを支援してきた経験を持つ同氏が、中東のスタートアップに必要な10の教訓を共有する。
「この1年間私は、アラブ出身の創業者たちとともに、中東の技術系スタートアップを立ち上げ、成長させるための投資プログラムに取り組んできました。これは、どんなビジネス教育や本を読んでも得られない経験です」
「元々難民だった私ですが、13年ぶりに祖国に戻って地元の起業家の成長を支援した後、自分の周りの人々に貢献できる存在となりました。この地域でビジネスを立ち上げ、成長させてきた中で、私が得た教訓は以下の通りです」
中東などの新興市場(EM)では、起業や投資を「正しく行えば」その長所は短所を上回ります。そのボラティリティにもかかわらず、成長著しいEMには最も高いROIがあるからです。投資家であれ、起業家であれ、EMに投資する理由は数多くあり、時間の経過とともに投資しやすくなっています。
中東の消費者は、商品を提供してくれるブランドには何の疑いもなく忠誠を誓います。もしあなたの会社がアラブの消費者のニーズを満たすことができれば、最も高い顧客生涯価値(CLV)と最も低い解約率を得ることができるでしょう。
スタートアップ企業は、初日からPRとマーケティングの問題に直面しますが、これは1つではなく、全く異なる2つの市場が存在することを知らないからです。Windows 95にアップグレードすべきかどうかをいまだに議論している官僚的で悪夢のような登録制の国営企業と、正反対のビジネス文化を持つ中小企業とミレニアル世代の若者という、2つの市場です。
スタートアップ企業は、ビジネスモデル、ブランディングにおいて、この2つのグループにどのように取り組むかを意識する必要があります。また、マーケティング担当者は、顧客の文化や価値観を反映した形でブランド・アイデンティティをどのように位置づけるかを意識する必要があります。
そしていつの日か、ラップトップに何十枚ものステッカーを貼ったスタートアップの創業者と同じ部屋にいる政府関係者の姿を目にすることができることを期待しています。
「No Man is an Island」であり、スタートアップも同様です。もしあなたが空港向けの手荷物追跡のスタートアップであれば、空港(別名:市場)を建設するために、航空会社の企業、警備会社、国境警備隊、建設会社などと一緒に働くことになるかもしれません。そこでは、共通の目的のために協力する、組織の専門性が役に立ちます。紛争後の経済の多くは、そうやって復興してきましたし、私たちもそうするしかありません。
自分の家から「成功するスタートアップ」のビーチに行くには、失敗の谷を通り、自責の念の町に寄り道し、最終的には自分が何をしているのかわからないというハイウェイに合流し(資金不足モールのすぐ隣)、気がつけばモチベーション不足のガソリンスタンドに立ち寄ることになるでしょう。
あのガソリンスタンドは誰もが通る道ですが、あまり時間をかけないようにしましょう。また、マップアプリでは数ヶ月かかるとされているかもしれませんが、大抵の場合、道路工事や途中でのパンクなどは計算に入れていません。
道路の真ん中に車を置いていく人もいるでしょうが、その途中で面白い人を見つけることができます。数年かかるかもしれないことを理解し、困難を受け入れることが重要です。なぜなら、それがあなたをより良い起業家にしてくれるからです。
中東でのビジネスの暗黙のルールのひとつに、部屋の中の象を考慮しなければならないというものがあります。それは、いくつかの市場を独占している多くの犯罪組織や怪しい組織です。
中小企業のゆすり、賄賂、地元民兵への収益報告の強要。旅をすればするほど、民主的に運営され政治的に安定している国でさえも、この問題を目の当たりにしました。
特定の状況下では、独立してビジネスを始めることは、自分の安全を危険にさらすことを意味します。これはいまだにデリケートな話題であり、多くの人が話題にしたがりません。これが、世界銀行のEase of doing business(ビジネスのしやすさ)指数において、中東諸国が世界的に下位にランクされている主な理由の1つです。
資金調達ができないことは、スタートアップ企業が初期段階で直面する大きな課題の一つです。しかしその一方で、投資ファンドやVC、金融機関の多くは、投資すべきスタートアップを見つけることに苦労しています。いくつかの金融機関では、サービスを革新し、金融面だけでなく技術面でのアシストも含めて多様化しています。VC2.0やスマートマネーのような新しいコンセプトは、もはやあったらいいものではなく、競争の激しい中東の市場では必要なものです。
中東のスタートアップ企業は、登録、課税、データの不足、企業との関係など、現地のハードルを乗り越えるのにも苦労しています。そこで、スタートアップのフィクサーとしての役割を果たす投資家の存在が光ります。
会社とは、問題解決のために集まった人間の集団を表す、人間が作り出した概念であることを忘れがちです。だからこそ、私たちのアプローチは、創業者が約束したことを実現する能力を反映した、人間中心のものでなければならないのです。
スタートアップが成功するための一番の要因は、それを支えるチームの質にあります。投資家は、優れたビジネスモデルを持つ資格のないチームよりも、まあまあのビジネスモデルを持つ質の高いチームをいつでも選ぶでしょう。
起業家として何が待ち受けているのかを理解し、自分の役割に合わせて知識やスキルのギャップを埋める努力をすることは、ビジネスを成功させるために不可欠な要素です。競合他社に先駆けて製品やサービスを素早く創造し、テストし、市場に展開することができる独自のスキルを持ったユニークなチームを持つためには、スタッフの育成と、双方向のパフォーマンスレビューがスタートアップの文化に組み込まれる必要があります。
中東では、国境を越えて共通のアイデンティティや文化が見られますが、各国のビジネス環境は隣国とはほとんど関係がありません。1つのハブを介して中東全体でビジネスを行う枠組みがないため、スタートアップ企業が隣国に製品やサービスを輸出しようとすると、国際貿易法や長い手続きに巻き込まれてしまいます。
スタートアップ企業が地域的に市場を拡大する際に、各国のビジネス法の変動は非常に大きな障壁となります。スタートアップはマスターのようにルールを学び、アーティストのようにルールを破ることが必要です。ビジネス弁護士は、この問題で創業者や投資家をサポートする上でかなりの役割を担っています。皮肉なことに、特定の国が不安定で混沌としていればしているほど、物事を成し遂げるのが容易になるのです。
アラブの創業者は、金銭的な利益のためだけに起業するのではなく、自分の居場所を主張するために起業するのです。自分よりも大きな目標を追求し、自分の価値を決定する自由を社会から自分の手に取り戻すためです。
このことは、難民を中心としたスタートアップ企業にはっきりと表れています。彼らは、時にはすべてを捨てて、キャリアと個人の生活の両方を再構築しなければなりません。この地域の創業者たちは、「スタートアップ」という小さな帝国を作り、個人の主体性を自分の手に取り戻しています。このコンセプトを意識すれば、スタートアップに対する私たちのアプローチは、より現実に近いものになるでしょう。
多くの人は、自分のスタートアップが世界を変え、話題になることを望んでいますが、スタートアップもVCも、小さく始めることの価値を理解する必要があります。大きくて遅くなる前に、小さくて速いことには多大な価値があります。
自分のスタートアップのアイデアを、まず小さなプロジェクトとして適用することで検証できるのか、と自問してみてください。また、既存のスタートアップであれば、ビジネスのピボットを一度に行うべきか、それともまず一箇所で展開できるか、と自問してみてください。
そこにStartup Weekendのようなスタートアップ・ハッカソンの価値があるのです。それは、製品やサービスを迅速にテストし、プロトタイプ化する環境を提供し、日本の有名なことわざである「二度測って一度切る」のように、多くのインサイトや学びを生み出してくれるのです。
私たちの業界では、やってみることが唯一の学習方法のようです。様々な困難にもかかわらず、中東では毎年何千ものスタートアップ企業が生まれ、すべてではないにしても、何らかの方法でハードルを乗り越え、関係者全員に価値をもたらしています。
怖くて、何度も挑戦することになると思いますが、もしすべてがうまくいっているように見えるなら、それはスピードが足りないだけです。
Anas氏はヨルダンを拠点とするビジネス・テクノロジストであり、中東における難民主導のビジネスを立ち上げ、成長させることを使命としている。
同地域でJusoor Entrepreneurship Programを運営。2012年以降、国連、政府、銀行、アクセラレータ、米国英国EUのVCと共同で、スタートアップとテクノロジーの分野で30以上のプログラムを実施し、中東の経済開発プログラムに携わってきた。
翻訳元:https://startupswb.com/10-lessons-working-with-300-startups-in-the-middle-east.html
表題画像:Photo by Per Lööv on Unsplash (改変して使用)